二男の卒業を機に、ちょうど彼の会社もあまり良い状態ではなかった事や、会社自体が遠い所に移転して通うのも大変になった事などが重なり、彼は五十九歳で早期退職をした。会社の事情もありの早期退職だった為、会社で人材派遣会社を斡旋してくれていたので、少しほっとした事を覚えている。
しかしここからが不運の連続だったのである。「いいなぁ」と思った所に面接に行くものの年齢の壁もあり、なかなか決まらず、本人も精神的に参ってしまい、しかも面接に行っては、今までやってきた事が何の役にもたたないというストレスで、かなり気落ちしていた。
「なかなか自分に合う仕事は見つからないな」とぼやく日々が続いていた。この時期、彼はよく眠れないという理由から、病院から処方された睡眠薬を時々飲んだりしていた。
ある時、普段飲まないお酒を朝方飲んで、あまり睡眠も取らずに、運転をしていて、道路の中央分離帯に思いきり車をぶつけ、車は大破、運ばれてきた車を見た時は、無残なものだった。相手の車にぶつけてという事ではなかったので、それだけはほっとしたのではあるが。
又この時びっくりしたのは、私の仕事場にタクシーで来て、「事故を起こしてしまった」と報告に来た事だった。
「お金は無いしタクシー代も払えない」と。この時は私もさすがにびっくりした。幸いこの時は少し胸を打った程度で、本人は大丈夫だったのが何よりだった。
しかし事故の影響で、「胸が痛い」と言い、病院から処方された胸の痛み止めを飲んでいたせいで、一か月位経った頃、出血性胃潰瘍を起こしたのだ。緊急で出血を止める手術をし、入院する羽目になった。
この胃潰瘍で出血を起こした日、ちょうど私が休みで出かけようとしていた。ふと見ると彼の顔が何か真っ青。
「どうしたの?」と聞くと「具合が悪いのだ」と言う。
「これは大変、病院に連れて行かなければ」と思った。何か嫌な不吉な予感がした。結果、出血性胃潰瘍で、遅れたら命も危ない状態だったのである。救急病院から救急車で大学病院へ行き、何とか一週間程度の入院で済み、「良かった」と思ったものだ。