あなたがいたから
脳腫瘍になって
その後就職が何とか決まり、ほっとしたものの、誰でも常にストレスは抱えているが、「この人はこんなにストレスに弱いのか」と改めて感じたのだ。何しろこの事故、出血性胃潰瘍、元からもっている結石もあり、何回となく入院している。
二男が産まれた時も、彼は山形に長期出張していて、帰る途中、バスの中で結石の痛みが出て、救急車で病院へ。子供に会えたのは三週間位経ってからだった。今思うと色々な事があったなと、でも何とか乗り越えてきたのだなと思う。
長く生きていれば、色々な事が人生には起こる。起こらない人はいないと思う。皆そうやって、何とか生きているのだ。自分の為に、又大切な人の為に。
結婚して四十年、これまで色々な事があった。
さあこれから仕事もセーブして、旅行に行ったり、趣味を興じたりして、二人でゆっくりと第二の人生を歩んで行こうと思っていた。その矢先に彼が病気になり、一年四か月でいなくなった。あっという間である。
彼が病気になり、しかも治る事が無いであろうと分かってから、「温泉とか二人でゆっくり行きたかった」と言った事があった。すると彼は、「行こうよ」と言った。
その彼の言葉に、私はどの様に答えたら良いのか、言葉が見つからなかった。もう行く事ができない事は、私も彼も分かっていた。彼なりの優しさから出た言葉だったのだろう。
彼に対しては、その時私ができる限りの治療は、やりきったのだと私なりに思っている。
病魔の前には、人間は本当に無力だと感じた。彼が亡くなってからは、何が何だか分からないうちに、次から次とやらなければならない事がいっぱいで、悲しむ事もすっかり忘れていたし、涙を流す事さえも忘れていたのだ。
でも色々な事が一段落すると、どっと悲しみというものは押し寄せてくる。私だけではなく大切な人を見送った方は皆、同じ気持ちだと思う。まだまだ悲しみはそう簡単にはなくならない。しかし亡くなった人は戻って来ない。
でも私はこれからも生きて行かなければならない。それならば、これからは自分の為に生きようと、そう思っている。