バリ、シンガポール
退院してからの彼は、少しは元気を取り戻したものの、時々熱を出し、元気だった頃の様にはいかなかった。
「体調も落ち着いているようだから、旅行に行かない? バリもシンガポールも行った事が無いし、ゆっくりできそうだからいいと思うよ」。
退院して暫くしてから、バリ、シンガポールへの旅行の提案をしてくれたのは、子供達だった。
「旅行はどうするの? 行けそう?」と聞くと、「大丈夫行けると思う」と返ってきた。
とはいっても九時間位のフライトになる。途中で具合が悪くなったらどうしようという心配も大いにあった。それは本人が、一番心配だったに違いない。そして私達は誰も口にしなかったが、皆感じていた事は、これが彼と私と子供達とで一緒に行ける最後の旅行になるだろうという事だった。
子供達は、「もし行けなくなってもそれは仕方ないから本人からの返事を待ちます」と伝えてきた。
彼も調子良さそうで、悩み悩んで桔局旅行に行く事になった。羽田からの便とは言え、荷物の持ち運びが大変なので、往復はタクシーを使う事にした。
「病気で弱っている彼に荷物を運ばせられない」
そんな想いで、スーツケース一つにする事にした。シンガポール経由でバリに向かった。八時間くらいのフライト中も彼は元気で、ほっとしたものだ。
ホテルは子供達にお任せだったが、広大な敷地にお部屋が点在する「シャレー」と言う様式のホテルで、敷地内には木々もあって、レギャンビーチに沿ったホテルだった。敷地の広さにも驚いたが、自然もあって感動した。
よく見ると小さなリスが木々を飛び回っていた。「ね、見て小さなリスがいるよ」と言うと、「本当だ、日本では見られない種類のリスだね」と彼は言った。
敷地内にはいくつかのプールもあって、小さな子供達には、天国の様である。朝食はバイキング形式になっていて、庭も見渡せ開放的だ。バリの爽やかな空気が、心地よく感じられて最高であった。
バリでの滞在中は、子供達の知り合いの現地の方に迎えに来てもらい、その車であちらこちらと観光をお願いする事になった。
ホテルから一歩出ると、色々な店が並んでいる街並みがあった。どの店も小さく、観光客の為の土産物を売っている。
どちらかと言うと、雑貨店といった感じの店が多い。
バリでの一番の思い出は、やはりバリ舞踊だろうか。音楽と踊りで表現されるバリ島の伝統舞踊である。