あなたがいたから

脳腫瘍になって

癌で苦しんでいる人が多い世の中、日本の医療は遅れているのでは、そう思った。癌も薬で治る時代が来るだろうか。そういう時代がきてほしい。そうであれば助かる人が増えるであろう。

退院後の彼は、次に再発したらもう助からないのではという思いが、常にあった様に思う。熱を時々出し、体調も元の様にはいかない。それでも彼なりに、歩けなくなると困るという恐怖から、散歩をしたりして頑張っていた。ゆっくりゆっくりの歩行で。

しかしなかなか帰って来ないと、心配し見に行ったりしたものだ。又彼自身も分かっていたのか不明ではあるが、脳腫瘍の関係からか、同じ所を何回もぐるぐると歩く事もあった。その様な状態でも、何とか腫瘍の進行を抑える事ができないものかと、息子には反対されながらも、遺伝子治療を受けてみる事にした。

でも結局、一回やっただけで熱を出してしまい、その熱がなかなか下がらず、一回で終わってしまった。合わなかったのだろうか。弱っている人にとって、どんな治療が合うのだろうか、まったくといっていいほど分からなかった。しかもどの自由診療も、病院まで通う事ができる人対象なのだ。通う事ができない人は、対象外なのだ。

最近往診で免疫療法をやってくれる病院もできたが、往診料も多額に取られる。それでも何とか腫瘍の進行を止めたい。これは私だけでなく、同じ様に大切な人が病気になれば、皆思う事である。

その頃の私は色々な本を読み、ネットで調べ、このサプリメントが効くといえば、高価であっても取り寄せて飲ませた。私が腫瘍で病んでいたら、逆に彼はここまでやってくれるだろうかと思いながら、毎日何か治療法はないかと探していた。でもこれが効くという治療も見つからない。悶々と時間ばかりが過ぎていった。

この頃は、何故進行を止める薬がないのか、そう思っていた。やはり病魔の前には、人間は本当に無力だと感じた。免疫療法も、今の彼に効くかどうかは分からない。誰しも病気になったら思う事ではあるが、何とか本人も助かりたいし、周りの人は助けたいのだ。お金が無ければ、命を延ばす事さえできない世の中なのかと。もっともっと医療が進んでほしい。

彼の場合も、「どうして脳腫瘍などになったのだろう」とまずそれを思った。それまでは、頭が痛いとか言った事も無かったし、結石もちではあったが、病院にお世話になる事もあまり無かった。私がストレスを与えたのかと、私自身を責めた事もあった。

でも彼の運命なのかと、その頃の私はそう気持ちを切り替える事しかできなかったのだ。