【前回の記事を読む】「衝撃と悲哀と言い知れぬ戦慄」複雑な思いに駆られた旧「登戸研究所」での一句
江ノ島
湘南江ノ島で、藤沢市主催の宝探しのイベント「エノシマトレジャー」があり、我々でも楽しめそうだからと元気な知り合いに誘われて出かけてみた。市が用意した地図を頼りに島中に隠されたヒントを探し、それを手掛かりに解答の言葉を見つけ提出すると小さな景品をもらえるという趣向だった。
江ノ島を久しぶりに訪ねたかったのは他にも理由があった。一つは去年十月に島を襲った台風二十一号で「岩屋洞窟」などにかなりの被害が出たというその後を知りたかったこと。
もう一つは江ノ島中に数々ある石碑、歌碑、詩碑、特に句碑をもう一度確かめてみたかったからである。江ノ島を題材にした俳句は其角、白雄、井泉水、碧梧桐、子規、青峰らの名もある『江ノ島鎌倉古今俳句集』という書籍が昭和初期に出版されているくらいだから多くの俳人がこの景勝に惹かれたことは想像できる。
日本三大弁天で有名な江島神社では奉納俳句が恒例と聞くし、江ノ島俳壇の名がある通りこの島には俳句愛好者が多かったようだ。宝探しのヒントを島中探し回る傍ら、むしろ句碑探しの方にエネルギーを使い、古帳庵、福島漁村、高木蒼梧、間宮霞軒らの碑を探すことが出来た。
最後に訪ねた永野泉山の句碑はこの島に三百六十年続く恵比寿屋という旅館の庭にあるという。写真を撮りたくて恐る恐る門から中に入ったら初老の男性が出てきて、庭木が邪魔で写真写りが悪いだろうからとシャッターを切っている間、句碑の前の枝を抑えていてくれた。江ノ島俳壇の指導者だった永野泉山はこの宿の七代目主人だったそうである。
住みなれて居てもすずしや島の月 泉山
休日ともあって賑わう江ノ島を一日中歩き回って得たこの日の収穫は、白波の取り巻く美しい島の景観と数々の江ノ島俳句の句碑と、頭を絞って最後にやっと解けた宝探しの答え「龍の目」であった。
二〇一五年九月