脳の形成は、司令塔となる前頭前野よりも、「感情」の中枢である扁桃体のほうが早い。だから、思春期はどんなに素晴らしい助言に対しても、きつく注意されていると感じることがある。注意と感じるならまだましで、場合によっては、攻撃されていると感じてしまうのである。
また思春期は、自分だけが苦しいと思いがちで、悲劇の主人公になりやすい。
バーバラは以前、自殺願望のある生徒に、言われたことがある。
「僕はバーバラが羨ましい」
「なんで?」
バーバラは少し照れながら聞く。
「だって、その歳になるまで生きられて」
「え? 健康だから?」
「あ、いや、なんも悩まないでということ」
「ああ、のうのうとってことね」
「まあそう」
「そうだよね~」と言ったものの、決して「のうのう」と生きてきた訳でも、生きてこられた訳でもない。反論はしなかったが、思春期の特徴を垣間見た瞬間であった。
バーバラは思う。思春期の子供たちを責めることはできない。自分もそうだったから。本当に荒れていた。人に感謝することもなく、ただ感情の赴くまま生きていたと。
バーバラは時々「この罰当たり者が!」と、あの時期の自分を叱りたくなる。それと同時に、見放さず信じてくれた大人たちに、今更ながら感謝するのだった。
時は過ぎ、今度は更年期がバーバラを苦しめる。
思春期も大変だったけれど、更年期は見えない敵との闘いだと彼女は感じている。イライラが止まらず、狂いそうになったこともある。一人で泣いたことも数えきれない。
「元気」と「笑顔」の仮面の下に、「不安」と「苛立ち」を隠しながら彼女は生きる。
更年期の向こう側には、きっといいことが待っている。そう信じて生きるしかないと気を取りなおす。そして自分自身に言い聞かせてみる。
「大丈夫。思春期も更年期も、乗り越えられるはずだから。頑張れ、思春期のみんな。頑張れ、更年期の私」