第1章 山本果音
六.多重人格者
果音は塾からの帰り道、スーパーの前でバーバラを見かけた。
(え? 本当にババア?)
学校で見る姿とは全然違って、まるで別人のようだった。顔色も表情も暗い。腰が痛いのか、手を腰に当ててゆっくりと歩いている。その姿を見て、果音にいきなり怒りがこみ上げてきた。
「バカみたい! いつでも明るく、元気じゃないのか!」
そう呟いただけでは収まらず、果音はさらに心の中で叫んだ。人には散々
「笑顔が大事」
とか、
「きっと大丈夫だから」
とか、言ってくる癖に! 全部嘘か! マジ嘘つき! 偽善者! 何か別人過ぎて怖い。あ~やっぱババアだ。なんかムカつく。
次の日、果音は朝から保健室へ行くことにした。別に用はなかったが、言いたいことがあったのだ。昨日目にした姿は勿論、今までのことも含めて文句をぶちまけたい気分だった。
コンコン。ノックしたものの、昨日目撃した弱そうなババアだったらと、内心ドキドキしていた。
「はーい。どうぞ~」
いつもの、ハイテンション。果音は少しホッとする。
「あら~、果音ちゃんどうしたの?」
果音はわざと、真面目な顔で言う。
「ちょっと、いいですか」
「ちょっとでも、いっぱいでもいいですよ~」
「はあ?」
果音は、バーバラに勧められた椅子に座るや否やぶちまけた。
「私昨日、駅前のスーパーの前で先生を見かけました」
「あら、それ私じゃないわ」
「じゃあ誰ですか!」
「う~ん。きっと、人気モデルのルシカだと思う。私と似ているから~」
(ふざけんな! ルシカにあやまれ! だめだ、またババアのペースに飲まれる!)
そう思った果音は、わざとハキハキと話した。
「すごく元気がなくて、暗い感じでしたよ。学校の中と外では別人ですか。腰に手を当てて前かがみで歩いていましたし!」
「あら、ばれた?」
「先生は、いつも生徒に元気を押しつけているけど、不公平ですよね。先生なのだから、いつでも元気じゃないと、いけませんよね!」
バーバラは、いつになく真剣な表情で聞いていた。