バーバラは、生徒たちにとって先生は絶対的な存在だと言うことを、痛いほど理解していた。小学生、とりわけ低学年の生徒にとっては、親より絶対的なこともある。学年が上がるにつれてその絶対感は薄れるが、先生に対する要求性は高いままだ。生徒は常に教師に成績をつけているのだ。
果音は正しい指摘をした。先生はいつも元気でなければいけない。そうでなければ、生徒はきっと不安になる。バーバラは修学旅行に同行した先生から、こんな話を聞いたことがある。
帰りのバスの中、ほとんどの生徒が熟睡していた。その先生もこっくり、こっくりとうたた寝をしていたそうだ。数日間、見回りや消灯指導でほとんど睡眠をとっていなかったので、やっと一息つけたのだった。
しかし、生徒に文句を言われたのである。
「先生は仕事中だから、起きてください」と。
「私は機械じゃない!」と、
その先生はご立腹であったそうだが、教師の職務を要求する生徒はむしろすごいと思えた。「石の上にも三年」と言うが、不器用だから三十年もかかってしまったとバーバラは苦笑いを浮かべる。
「先生なら、当たり前」
その言葉をプレッシャーだと思うこともあったが、その言葉に背中を押されたのも確かだ。刑事が、四六時中犯人のことを考えているように、教師も生徒のことが頭から離れない。
「石の上」でバーバラは、生徒との共有できることを模索した。吹奏楽部の生徒が悩んでいる時には、一緒にフルートの練習もした。ダンスや一輪車、歌、etc……。一緒にできることはチャレンジしてみた。少しでも生徒の苦悩に近づき、向き合いたかったからだ。
「石の上」に三十年いたおかげで、バーバラは色々なことができるようになっていった。何事にも真剣に向き合えば、きっとできる! このことを証明したかったのかもしれない。だから「多重人格者」と言われても、しっくりくる節があるのだ。