第1章 山本果音
三.出会い
学校から帰ってきた果音は、スマホ画面を見ながら笑みを浮かべていた。最近「友達」ができたのだ。今まで出会ったことのない、本当に気の合う友達だと彼女は信じてやまなかった。
一週間前のことだ。果音はドキドキしながらスマホを操作した。心なしか指が震える。年齢を十八歳に設定し「出会い系アプリ」を使ったのだ。そしてとうとう「最高の友達」を見つけた。その「友達」は二十八歳の男性だった。スマホを通じてのやり取りだけでも、果音にとっては十分に刺激的だったし、彼のことが大切に思えた。果音は何より、嬉しかった。自分を否定せずに、全てを肯定してくれる大人が存在することに、喜びを隠せなかった。
「嘘つきたくないから、正直に言うね。本当は私、十三歳」
「マジ~、若いね。でも、そんなの関係ないから」
果音のカミングアウトに、ショウは期待通りの答えを返してきた。
「嬉しい!ショウ君のおかげで、学校であった嫌なことも吹っ飛びそう」
果音は心の底からショウを信頼し、ほのかな恋心を抱いた。写真の中のショウは、全てを包み込むような素敵な笑顔の持ち主だった。
四.「あの子」―リナ
バタン。誰かが乱暴に、ドアを開けた。保健室に「あの子」がやってきたのだ。果音から話は聞いていたバーバラであったが、本人と話すのは初めてだった。
関口リナはサラサラの髪が素敵な子で、いかにも賢そうな顔をしている。果音は入学当初、保健室にくる理由を、リナとの問題だと言っていた。しかし最近は、めっきり果音からの「苦情」もなく、二人の関係も落ち着いているのだろうとバーバラは思っていた。
リナは、バーバラを真っすぐ見ながら言う。
「果音、最近ここにくる?」
初めて話すリナがタメ口だったために、笑いそうになったが、バーバラは気を取り直して答えた。
「え? 山本さん? 最近はあまり来ないな」
「やっぱり!」
「ん? やっぱりとは?」
バーバラが不思議そうにリナを見る。
「果音、何か新しい友達ができたって」
「へー友達? いいじゃない」
「でも大人の男みたい。その人が果音にとって一番らしくて、すごく浮かれてて……」
リナが悲しそうに視線を落とす。
「そんなに気の合う友達ができたの?」
「うん。ちゃんと話してくれないけど。何か自分がバカみたいに思えて。ハァ、今まで果音のために、私がしてあげたことは何だったの!」
リナがため息をつく。
「へ? 今まで果音ちゃんのために?」
バーバラの頭の中に?マークが大量出現する。
「あ、あぁ関口さんは、山本さんを気遣って色々頑張ってくれていたのね」
「そう。好きでもないアイドルの話とか、家族に対する不満とか、聞きたくない話も真剣に聞いてあげて……、フー」
リナが保健室を去った後、バーバラは考えをまとめてみた。リナは果音のことが嫌いじゃない。心配もしている。そして、新しい友達に嫉妬もしている。果音もリナもお互いを意識し過ぎて、まだいい関係性を作れていないのだろう。
男女の恋も複雑だけど、友達関係も複雑だ。もしかしたら、二人はいいライバルになれるかもしれない。そうなって欲しいな。果音ちゃんとリナちゃん。しかし、大人の男友達って?