五.イケてる大人と、変な大人
果音にとってのショウは、不満もしっかり聞いてくれる存在だ。一緒に悪口も言ってくれる。
「リナちゃんはさぁ~、きっと果音ちゃんに嫉妬しているんだよ。だって、果音ちゃん、かわいいから。リナちゃんは、かなり性格がブスだね。そんな子は、無視したらいいよ。果音ちゃんには僕がいるから」
ショウは最高にイケてる大人なのだ。
(早く放課後にならないかな。早くショウ君にメッセージ送りたい)
気分よく廊下を歩いていたその時、何か見てはいけないものを見たような気がした。
「果音ちゃん~」
「果音つぁん~」
「うわっ!」
視線の先には手だけでなく、腰までふりながら笑っているバーバラがいた。
(出た! 変な大人。無視、無視。見えないふり。聞こえないふり)
「果音ちゃん、果音つぁん~」
(もう、しつこい!)
「ブラウスかわいたよ~。もうスケスケにならないよ~。取りにきて~」
(誰かに聞かれたらどうするのよ!)
そう言いながら、果音は小走りで保健室へ向かう。かかとを踏んでいるせいで、上履きがパタパタと音を立てたが、気にも留めなかった。果音はすごい勢いで、そして力任せに保健室のドアを開けた。
ハアハア……。果音の息が荒い。次の瞬間、果音は自分でも驚くほどの大声を出した。
「先生! ちょっと声でかい! ただでさえ学校が嫌なのに、もっと嫌になるじゃないですか!」
バーバラは顔いっぱいに皺を寄せながら微笑む。
「ごめん。果音ちゃん見かけたら嬉しくて」
「私と逆ですね」
果音は露骨に嫌そうな表情を浮かべながら、そう答えた。
「ハハハ、果音ちゃんは学校がそんなに嫌い?」
バーバラの問いに、果音はただうなずいた。
「私も学校嫌い~、でも果音ちゃんは大好き!」
「は?」