「ステーファノ・コロンナ様は知っているかい?」
「このパレストリーナの町を立て直した領主様よね?」
ジャンネットは大きく頷き、話を続けた。
「その奥様は、ファルネーゼ家から嫁がれた方なんだ」
「ファルネーゼ家と言えば、今の教皇パウルス三世猊下のお家」
と言って、ルクレーテは頭を垂れ、十字を切った。
「そう。奥様はパウルス三世猊下の叔母に当たられる」
「僕の祖父ピエルルイージは、その奥様についてコロンナ家に入った護衛兵だった。ファルネーゼ家には曾祖父の代から仕えていたんだよ」
「それで、ジャンネットのお父様は今でも護衛隊の副隊長をなさっているのね」
「曾祖父は、生まれてきた祖父が洗礼を受ける際、奥様のお兄様に」
「教皇猊下のお父様ね」
「そうそのお方に名付け親になって頂いたんだ。つまりピエルルイージという名前は、今の教皇猊下の御父上ピエルルイージ・ファルネーゼ卿に由来するんだ。その後父はその名を受け継ぎ、サンテ・ピエルルイージを名乗ったから、僕もジョヴァンニ・ピエルルイージって訳さ」
「身震いするほど感動しているわ」
「ところで、君がお父様から頂いた遺産のブドウ畑って、どこにあるんだい?」
「行った事はないけど、アルバーニ丘陵のネーミ湖の辺りだって聞いているわ。今度兄に尋ねてみるわね」
「是非一緒に行ってみようよ」
「そうしましょう。とても美しい所で、五〇人程のアフリカの奴隷を使って仕事をさせているって、以前父が話していた事があったわ」
ルクレーテは父から遺産として他に家を一軒、数カ所の土地と牧草地を相続しており、この度の結婚で、それらも含めて二人の所有となっていたのである。
ルクレーテとの結婚生活は幸せであった。