【前回の記事を読む】歴史とともに発展してきた「内部告発訴訟」って…政府に代わって「市民」が起こす

第1章 小さな政府と[民活]――民事訴訟を促して社会問題を解決

<事例>事例環境汚染で最高額の和解――「ヒンクリー地下水六価クロム汚染訴訟」

ここではもう一つの日本企業、東洋紡による「防弾チョッキ素材不正事件」を見ていくことにしましょう。警察や軍隊へ供給していた防弾チョッキの素材、ザイロンの急速な劣化を隠していたことが内部告発で明らかになった事例です。

<事例>隠蔽を白日の下に晒した「内部告発訴訟」――「東洋紡欠陥防弾チョッキ事件」

2001年、日本の東洋紡は、米国の大手防弾チョッキメーカー、セカンド・チャンス・ボディ・アーマー(以下SCBA)に防弾チョッキの素材、ザイロンに劣化の可能性があることを通知しました。当時、東洋紡もSCBAもこれが大きな問題だと考えていなかったようです。

しかし、SCBAでリサーチディレクターを務めていたアーロン・ウェストリック(Aaron J. Westrick)博士は違いました。自身、ミシガン州で副保安官を務めていた時、犯罪者に胸を撃たれた経験があり、防弾チョッキがいかに重要であるか身をもって知っていたからです。

実際に博士が防弾チョッキのテストをしてみると、素材のザイロンは予想以上の速度で劣化しており、防弾チョッキとしての用をなさなくなっていることがわかりました。ウェストリック博士は会社に報告しますが、会社は動こうとしません。博士は、防弾チョッキの使用者たちに警告すべきとメモでも伝えますが、それも無視され、会社の弁護士によって廃棄されてしまいます。

SCBAはこの事実を隠蔽しただけでなく、販売促進に成功すれば、東洋紡からリベートを受け取る契約すら結んでいました。博士は嫌がらせや脅迫を受けた上、2001年に解雇されてしまいます。