1 はじまりの火事
義兄は相当驚いたらしい。コーヒーカップを危うく落としそうになった。
よかった、すでに飲み干していて……。
「別にいいでしょ。殺人事件じゃないんだから、危なくないし」
「そういう問題じゃない。警察だって、そのあたりはきちんと調べてみて、特に事件性はないと結論づけたんだ。だからこそ新聞でも本人の失火だと発表された」
「うん、分かってる」
いいや、分かっていない、という風に啓介は首を振った。
「でも、警察は鑑識の結果ありきで失火だと結論づけてるよね。空白の四時間についても、無理やりに火の不始末という方向にして、たまたま用事ができたなんて後付けのような気がする」
義理の妹の鋭い指摘に、啓介はちょっと怯んだ。まさに啓介本人が捜査を進めてきた中で、最後までひっかかっていたのがそのことだった。
「ともかく、私は素人目線から見て鑑識がどうのとか関係なくそこだけを調べてみる」
「止めても聞かない性格だからな」
啓介は、もはや諦めモードに突入していた。
「そうだよ。家族は納得できる死ではなくても、納得できる真相は知りたいと思うもの」
あずみはその一言を、自分自身に言っている気がした―。