やっぱり初雪は、すぐそこまできていた。
先日、学長先生の銅像が白髪姿に変わるまであと数日ほどだろうと思った通り、今日は初雪になった。
「で、お義兄さんはどうだって?」
今日の学食は人が多い。この雪で外に食べに出る学生が少ないからだろう。
「うん。お義兄さんの話では、やっぱりどう考えても放火とか、そういう可能性はあり得ないって。だから殺人じゃないのは確かだと思う」
そこだけは強調して言った。
「そう……」
「うん。でもね……」
真琴の表情が途端に変わる。あぁ、分かりやすいわ。
「例の空白の四時間の謎、お義兄さんもちょっとそこは気になっていたみたい」
「やっぱりそうでしょ?」
「その四時間のこと、真琴はお母さんから何か聞いていないの?」
「電話を受けたのはママだけど、その時には特に何も変わった様子はなかったって……」
やっぱり、お母さんから直接聞かないと分からないか。
「ねぇ、今日学校が終わったら、真琴の家に寄ってお母さんからその時のこと聞けないかな?」
「いいよ。うちのママも全然落ち込んでなんかいないの。やらないといけないことが多いんだって。会社のこととかも、お兄ちゃんだけじゃまだうまく回らないらしいし……」
そうだ。真琴の家ではすでに優秀なお兄様が後継者としての仕事を一任されているのだ。だから真琴は、のほほんとして後を継がなくても許してもらえると思っている。そういう意味では、後継者争いといった類いの、いかにも殺人の動機になりそうな家庭内事情はでてこない……ハズだ。
「じゃあ、これから三時限目が終わったら、掲示板のところで待ち合わせね」
「うん、分かった」
今日は木曜日で、唯一講義が三時限目で終わる。一年生だからといって、基礎教養科目が主の座学だけでなく、実習の見学なども入る看護学部は忙しい。唯一ゆっくりできる木曜日に付き合ってもらうのだからと言って、真琴は自分の車で送ってくれた。もちろん真琴の車はバリバリの新車であり、義兄が乗り回している軽四の乗り心地とは比べ物にならないほど快適だった。