第一話 カミーノを歩く人たち

12月5日

朝はまたカミーノまで奥さんが車で送ってくれた。すると、少し前を前日何回か会った一人で歩いている女性がいた。ブラジルから一人で来ていて、800キロメートル歩くコース、ピレネー山脈を越えてきたそうだ。少し話しながら歩いたが、私の方がお先に失礼した。彼女はいったいどんな思いがあって歩き出したのだろう。

この日は平坦な道が多かった。天気は前日と同じように朝方曇りで、徐々に晴れてくるというパターン。昼近くに道端で座って休んでいると、明るく楽しそうな話し声と笑い声が聞こえてきた。通り過ぎて行ったのはブラジルの女の子と若い男性だった。旅は道連れなのだろう。昼は広めのレストランが開いていたのでそこでとった。

この日はパレス・デ・レイまで24.5キロメートル歩く。午後になるとパラパラと少し雨が降ったが、フードをかぶるくらいでやり過ごすことができた。だが、道を歩いているとなんだかふらふらしてまっすぐ歩いていない感じだ。2時ごろには町中に入ったが、ホテルの場所がそれから遠かった。町に着いたと喜んだ分、行けども行けどもホテルにたどり着けない感じだった。

やっとホテルに着いて少しベッドで休みだしたら、気持ちが悪くなってきた。前日の寝不足で疲れが出てしまったのだろう。その日は何も食べずに寝てしまった。

12月6日

さすがに朝早く目覚めた。よく寝たので気分はすっかり良くなっていた。朝ごはんをしっかり食べて少し早めの6時ごろに出発した。まだ町は真っ暗だった。黄色い矢印をたどって歩き始めたが広い道路には矢印が全く見えなかった。さすがに30分くらい歩いて間違ったかなと思い始めた。分かれ道になっても矢印は出てこないので、仕方なく来た道を戻った。せっかく早く出ても1時間ロスしてしまった。しかもこの日は最も長い26.7キロメートルを歩かなければならない。

この日も曇りから少しずつ晴れていって、午後パラパラと雨が降ってきた。この雨は夕方まで続いた。歩いていても少し寒い日だった。また小さなバルで昼食はサンドイッチだった。しかし、なんとそのバルに日本人が現れた。「日本人ですか」と小さな声で尋ねると、「日本人ですか」と大きな声が返ってきた。