看護師たちはヘルパーたちを煽り、みんなで僕を責めたてた。仕事そのものや利用者相手のことならば仕方ないと諦めがつくが、こういった理不尽ないじめはこの世界でよくあることとはいえ、心底やるせなかった。
看護師同士のいじめも、ものすごかった。月に四、五人は辞めていき、そのたびに新しい看護師が補充された。彼女たちの仕事量も半端でなく、ストレスが極限にまで達していた。
「こんなことだとみんな辞めてしまいますよ」
僕がそう訴えても、事務長は
「いいんだよ。そのためにたくさんの募集をかけているんだから」
とのんびりと植木に水をやっていた。
「ハゲめ!」
忙しさに苛立った看護師にそう言われたこともある。
ちょうどその頃からだ。左右の剃りこみのあたりの髪が後退してきたのは。だが、たとえハゲたとしても、頑張るしかない。僕はそう心に決めていた。この状況を乗り越えれば、きっと平和な日々が訪れるはずだ。
僕は朝晩、ヘアハゲーンという育毛剤をたっぷりと剃りこみのあたりに塗布した。ヘアハゲーンはミノキシジルという成分が入った、爆発的に売れている育毛剤だった。剃りこみ部分の後退とともに、前頭部の張りや偏頭痛、肩こり、腰痛といった症状が出てきた。患者を転倒させてはいけないと神経をすり減らしながら、週に三日来る救援スタッフとともに入所者と通所利用者の両方をみた。
利用者に対するスタッフの絶対数が足りず、いっそのこと手を抜いてストライキを起こそうかと考えたりもしたが、そうなると利用者の体の状態は目に見えて悪くなっていく。セラピストとしてそれだけは絶対にできないことだった。睡眠時間を減らし、救援スタッフが帰ったあとも夜おそくまで一人残って仕事をするよりほかなかった。
夜中までかかってカルテを書くときは、当直を請け負った。当直は、各階を巡回後、異常がなければ夜十時に事務長に報告することが決まりとなっていたが、事務長は
「おれ十時には寝ているから、報告の電話はしなくていいよ」
といつも能天気に言った。事務長の成績のためにみんな無理をさせられているようなものなのに、肝心の本人がこれでは、いくら頑張っても意味がないように思われた。