積雪

沙耶香が知人からもらってきたという冊子を広げながら、疲労と希望をちらつかせた瞳を真田と悠希に向けてきたのは、八年ほど前のことだった。

ちょうど更年期に差し掛かっていた沙耶香は、夫と娘の理解の範疇を超えた体調不良と情緒不安定を抱えており、そんな彼女を見かねた知人が、自分の所属している集団への入会を勧めてきたとのことだった。

真田は世界各国に溢れる宗教に対して概ね理解を示していたつもりだったが、それは自分や家族とは無縁の存在だと認識しているからであり、いざそれに近いものを目の前にすると、彼はわかりやすく尻込みした。

一応冊子に目を通してみると、いわゆる悪徳な新興宗教などとは違い、一人の人物を先生と崇めて行われる自己啓発セミナーに近いとはわかったが、やはり戸惑いの念のほうが強く残った。

「毎週月曜日と水曜日の朝にあるから、とりあえず明日みんなで試しに行ってみようよ」

沙耶香の爛々とした目と声を見たのは久しぶりのことだったが、それが真田の猜疑心を煽った。

会は早朝の一時間ほどを使って行われているようで、主婦だけでなく、会社に行く前の共働きの夫婦なども多く参加しているようだった。

「ごめん、明日は難しいな」

「そう……じゃあ悠希は?」

矛先が自分に向けられた悠希は、冊子を捲る指を動かしながら、明日ならいいよ、と淡々と答えた。それに沙耶香はわかりやすく歓喜した。