プロローグ 事故

お葬式の最後にお父さんとお母さんの顔の周りにちぎった花をみんなで並べた。お祖父ちゃんが「あとのことは心配するな」とか、平井のおじさんが「できるだけのことはするから。安心してあっちで待ってろ」と話しかけて花を置いた。

昭二兄ちゃんは顔をくしゃくしゃにして涙をぼろぼろこぼしながら震える手で花を置いた。僕はたくさんの花を半分ずつお父さんとお母さんの顔の周りに置いた。お父さんたちの顔は作り物みたいだった。

渡された花を全部置き終わったとたんに、僕の喉に詰まっていた堅いものがぽんと飛び出した。自分の口から自分の声じゃないような変な声が出始めた。あわてて口を押さえた。

自分の体ではなくなったように勝手におなかがひくひくしだした。閉じようとしても口が閉じなくなって、よだれと涙があふれてきた。声を出さないように、体のひくつきを止めようと体中に力を入れた。でも体中が勝手にひくつくし、変な声も止めることができなかった。隣の昭二兄ちゃんが僕の肩を引き寄せた。

「ヒロ、親が死んだら男だって泣いていいんだ」お祖父ちゃんの声がした。

お通夜のときからいろんな人に「お兄ちゃんなんだから」とか「男の子なんだからしっかりしろよ」と言われてきた。

歯を食いしばって声が出ないようにロボットみたいに両手を伸ばして拳に力を込めて、顔を上げていようと頑張ってみても涙で前がよく見えないし、顔は涙と鼻水でぐしょぐしょだから上げていられなくて、何度手でぬぐっても手が濡れるだけで、涙とよだれといろんなものが止められないで、ぼとぼと床のカーペットを濡らした。

由美が隣で「お父さーん、お母さーん」と叫び続けていた。泣きながら叫ぶから、おとうしゃーん、おかあしゃーんと聞こえる。隣に妹がいるんだ、僕はお兄ちゃんなんだと思っても、何度も手で顔をこすっても、涙も鼻水も変な声も止まらなかった。

千恵姉ちゃんがしゃがんで由美を抱えたまま左手で僕の背中をさすってくれた。お姉ちゃんも泣いていた。周りの大人たちもみんな泣いていた。斎場の人がお棺にそっと蓋をかぶせた。僕は昭二兄ちゃんに手を取られて、渡された石で釘の頭を軽く叩いた。

千恵姉ちゃんが由美に石を持たせて手を添えて叩こうとしたとき、由美が「いやだー」と叫んで手をふりほどいた。石がお母さんの棺の蓋の上で転がって大きな音を立てた。由美はお姉ちゃんにしがみついて、もっと大きな声で泣き叫んだ。蓋の上を転がった石は白手袋をした係の人が拾い上げ、ポケットに入れてから金槌(かなづち)で釘を叩いた。

僕は壊れたまんまだった。唇は開きっぱなしでぷるぷる震え、よだれが垂れ続け、おなかが勝手にひくついて、膝も震え、しゃくり上げ続けて涙で周りがぼやけていた。