【前回の記事を読む】50年来の車好き「今の車には“クルマ味”が感じられない」の真意
車社会の行く末はどこ
ゼロヨン18秒のスカイライン
ある意味、決して速くもなく、回るエンジンを搭載しているわけでもなく、また大きくなって重さを嫌でも感じてしまうようになったスカイラインは、一方でシュルシュルという心地よいエンジン音と排気音で耳に訴え、直立したシフトレバーで左手に緊張感を与えた。
また、7連のメーターを横に並べて視覚的にも“走る気”をドライバーに呼び起こし、高速走行ではその重さも大きさも感じることはなかった。
デュアルエキゾーストからガソリンの燃えた臭いを放ち、私の五感を刺激していた。追い越し加速は鋭くはなかったが、5速100キロのクルージングは本当に気持ちよかった。
4速に落として100キロで走るのも悪くはなかった。NAPSではないL20シングルキャブの4ドアGTの0~400mのタイムは、正確には覚えていないが、おそらく17秒後半か下手をすれば18秒台であったかもしれない。
私は本当につまらないことを覚えているのだが、45年前の車雑誌の『ドライバー』誌に載っていたNAPSの最強モデルであったインジェクションモデルのハードトップ2000GTX −EXの5速マニュアルの0~400mのデータが、18.2秒という数字で衝撃を受けたことを覚えている。当時最強ではあり得ないくらい“遅いクルマ”であった。
ただ一つ思うことがある。
もし、私がケンメリの前の“愛のスカイライン”(C10 ハコスカ)に乗っていたらどうだったのかということである。私自身は武骨な車が好きなので、さぞかしケンメリ以上に愛のスカイラインにはまったのではないかと思う。
当時、近所にその愛のスカイラインのシルバーの2000GT5速に乗っている“お兄さん”がいた。いつもきれいにしていてめちゃくちゃ羨ましかった。右テールランプの下に5SPEEDという小さいオーナメントが付いていて、それを見るたびに20歳前の私の胸はときめいた。
残念ながら今まで一度も愛のスカイラインのハンドルを握ったことはないのだが。そう思うと、余計なことだが今の若い人たちはかわいそうな気もする。“寝ても覚めても”という車に出会うことがあるのだろうか? と。
ただ、一方であの回転落ちが悪く、全く吹けない昭和50年のNAPSのエンジンを積んだ車に乗って、車に幻滅するような経験もしないということも、ある意味今のドライバーは幸せなのかもしれない。人間が学歴や身長、体重などのスペックではその良さがわからないのと同じで、車もスペックでは魅力の全てを語ることはできないと思う。
実際NAPSのインジェクションのL20はカタログでは130馬力であったが評判は芳しくなかった。現代の車ほど安全でもないし、また便利な装備もない。けれども生き物ではない輸送機械である車と心を通わせる。そんな体験をぜひ今のうちに若いドライバーの人たちにもして欲しいと思う。