十七
旧家の持ち主が捨てられたAIを拾ってきた。
最近の持ち主は社会の風潮に敏感に反応して、エコロジーに傾倒しているようだ。壊れたままのAIは毎日こう呟いている。
「あいするひとをみつけるみつけるかならずみつけてみせるわたしはできるわたしはでかける」
持ち主は一人で修理しているがなかなかすぐとはなおらないから、その呟きばかりをする。夜寝ている時にはじめられると、こっちがたまったものじゃない。持ち主の妻が泊まりにきた時など、うすきみ悪いからと、元のところに捨ててこいと言う。
そこはAIが山のように積まれた鉄工所なのだ。溶かされまた新たなAIになるため、役にたたなくなったAIがうずたかくひしめいている。壊れた一体がなくなっても誰も気づかない。
マニアが持ちかえって、オリジナルなAIをつくることがはやってもいた。それらをもちより、ストリートファイトさせるのだ。ゲームの中のストリートファイトとはまるで迫力が違う。負ければ、もとのスクラップ行き。勝ったAIは生き延びる。連勝を続けるAIは、殿堂入りし、その能力を継承できる。つまりは永遠の命を約束される。
持ち主はまだそこに参加したことはない。勝っていけば賞金が貰えるから、製造者にも大いに魅力ある大会だ。しかし、それには持ち主の技術力だけでは限界がある。ほとんどがチームをつくり戦っている。ちょうどF1レースに似ている。さまざまなメカのプロフェッショナルや全体をまとめる監督にうまいドライバー、それらが機能するかどうかが、勝負を大きく左右する。
持ち主は専門的な仲間を集めなければならない。スクラップを拾ってくるぐらいなら、もっと今あるAIを生かすことを大切に考えてほしいと修作は思うが、今まで散々使い捨てにしてきた持ち主に、いつスクラップに回されるかわからないので言えるわけはなかった。
大地を震わす雷鳴よ
我みちゆくさきを
その轟きに導かれて
新しい我の生まれ変わりを思う
天の怒りであるか警告であるか
たどりつくは我が人生の懺悔となりて
ソマリア虚、明後日、知能、パニック、防備、妬み、雨雲、サリンジャー、油膜、
下水道の子供たちの戯れる声に戦慄し、何か懐かしい狭き門を出ていく。
ラプソディー、刹那のクオリア、エノラゲイ、シナプスの重層性、廃墟の宴
ロバーツ、ロドリゲス、ベケット。
多忙、誰に、ナターシャ、死ぬ気、一億光年に吹く風、光芒、クウォーク。
ギャップとつながったことがあるか。
愚者の祭り。
本当に愛しているのなら、そっと心の中にしまっておかなければならない。