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「前にも言ったが、カシマレイコって妖怪は、俺たちの間でも知られた存在じゃねぇんだ。何しろ、見たヤツがいねぇんだからな、カシマレイコを」

和風系創作居酒屋、闇酒屋の厨房で、まかない飯を食べながら、人面犬が言った。

人面犬は、都市伝説として1990年ごろに世間を騒がせた、体は犬、顔は人間という妖怪で、伏見とは以前、ある事件を通して知り合い、ともに事件を解決した過去がある。それ以降、柴犬の体に中年男性の顔という、この奇妙な妖怪は、伏見の情報屋として活動している。

その人面犬にまかない飯を出している闇酒屋は、人間と妖怪のハーフである店主、波多野仁(はたの じん)が経営する店で、人間の世界で共存する妖怪の他、人間たちも普通に通ってくる。店として分類するなら、和風系創作居酒屋といったところだろうが、バーのような雰囲気もあり、実際、酒の種類も豊富で、客の好みに合わせて、カクテルも作ってくれる。

「従業員でもないくせに、なんでまかない飯食ってんだおまえ……」

会話より食事に夢中の人面犬を見ながら、伏見は言った。

「今日の飯がたまたま、まかない飯だっただけだ。いつもってわけじゃねぇ」

「仁さんへの情報提供の対価とはいえ、従業員でもないのに、厨房で飯を食ってるおまえを見てると、なんというか……」

「なんだ伏見、なんか言いたいことがあるなら言え」

「いや、いい。で、他に情報はないのか?」

「これといったものはねぇな、今のところ。何しろ、俺たちの間でも都市伝説なんだからな、カシマレイコは」

「一応言っとくが、おまえも一般的には都市伝説だからな。目の前にいるのが、未だに信じられないときがある」

「幽霊とか妖怪とか信じてるんじゃねぇのか?」

「信じてるっていっても、盲目的に信じてるわけじゃない。それに、信じていても、実際に目の前にすると、戸惑いもあるもんだ。普通って言葉は好きじゃないが、一般常識というか、そういうものとはかけ離れた存在だからな」

「ふ~ん……実物を目の前にしても、そういうもんか」

「人間は自分が見たいものを見る。たとえ目の前にあっても、それが受け入れられないものなら、いろいろと言い訳をしたり、都合のいい解釈をしたりして、自分を納得させる。おまえも元は人間なんだから、なんとなく分かるだろ?」

「そうだな……まあ、分かるっちゃあ分かる」