12 啓蒙

「う~ん……、ぼくは、夢のなかが好きなんだ。夢や目標とかよく言われているけど、ぼくの言っている夢は、たとえば、う~ん、シューマンの『トロイメライ(夢想)』のようなものなんだ」

「ああ! あの曲ね!」

「歌っているときは、夢やロマンのなかにいるし、全てが、うっとりと微笑んで輝いているんだ」

「確かになぁ~、疲れているときや想いを馳せたいときに『トロイメライ』のような曲が流れたら、とってもいい~ね」

「そうでしょ。だけどね、ぼくの声はちょっと粘り気があるから、ああいう感じは出せないんだ」

「ふ~ん……。それがいいんじゃないの?」

「ふぇ」

「いや、だから、それがいいのよ。その粘り気が」

「そっかぁ、そうなのかなぁ……。まあ、ぼくなりに、夢の世界を歌っていくよ。というか、いつでもぼくなりにしか、歌えないんだけど……」

サヤカは突然高々と笑い出した。

「ハッハッハ!!!」

スグルは馬鹿にされたと思って俯(うつむ)きながら、

「なんで笑うの?」

「だあってぇ! なんでもよ!! なんでも!!」

「やっぱ馬鹿にしてるでしょ」

「違うの!! 今日、わたしが探してた答えが!! そのヒントが!! こんなにも、こんなにも、夢の世界だったなんて!!! エッヘッヘ!!! ハッハッハ!!!」

「ちょっと……、やっぱり笑い過ぎだってば」

「スグル、最高よ!! 最高!!!」

「よく分かんないよ」

「いや~、だからね、そのぐらい、そ・の・ぐ・ら・い・パーソナルなのがいいのね」

そう言われても、いっこうに笑いが止まらないサヤカを見ていたら、スグルはいい気がしなかった。