そのうち、これはどうしても夢ではない、と思った出来事があった。
うとうとしていたら、体が浮き上がったのである。はっとした。目は完全に覚めている。しかし体は少しずつ上昇し、天井からわずか三十センチメートルほどになった。
その時、自分が素っ裸なのに気が付き、一瞬「恥ずかしいー」と思った。その瞬間、裸の体がパジャマで寝ている体にすごい勢いで戻った。
一郎は目を開けた。その時、自分が幽体離脱をしたのだということがわかった。なぜ自分が素っ裸だったのか、それは幽体だったからに他ならない。
その後幽体離脱はたびたび起きた。幽体が体に戻るときぴったり合わない気がすることがあり、その時は何とも違和感に苦しんだ。
この後には、立て続けに怖い夢を見るようになった。
真っ暗い宇宙のような空間で魔性のものに捕まり、一定の方向に連れ去られようとしている。そこが地獄だということがわかる。
「南無大師遍照金剛」
「南無大師遍照金剛」
「南無大師遍照金剛」
と唱えるが、全く効果がない。
苦しくて夢の中で全身を使ってもがく。もがいた左手が自分の顔に落ちてきて夢から覚めた。自分が寝ながらあばれていたのがわかった。
この夢は二回続けて見た。
そしてあるとき、一郎は大きな屋敷の中で、魔性のものにずるずると廊下を引きずられていた。なすすべもなく引きずられ恐怖に震えていたのだが、そのうち猛烈に腹が立ってきた。
「この野郎、起き上がってぶん殴ってやる」
そう思ったときだった。
ぱっと目が覚めて、なぜか自分に除霊能力が授かったことがわかった。この感覚は本能的なもので、理屈では説明できない。
それからは歓喜したのと幼い頃からの恨みがごっちゃになり動物霊や悪霊を探しまくった。相手が見えるわけではないのだが、そういうものがいるときには、空気が澱み頭の毛が逆立つ。ただしこれは恐怖からではなく、目のかわりをしているのだ。例えば深海魚のひげやアンテナのように。
それらの化け物を捕まえると、すぐに秒殺で仕留めるのが面白かった。今思えば、少し力がある素人のお遊びだった。しかしそれが一部で評判を呼び、結果的に除霊師としての経験を重ねることができた。