序章 三人寄れば地獄行き
「一郎、久しぶり。悪いけどまた除霊してもらいたいんだよ。近いうちに『花つつじ』に来てもらえるかな」
「全然かまわないよ直也。明日はちょうど休みだから行けるよ。ところでおまえ、まだ『花つつじ』で働いていたんだな」
「今副店長としてやっているよ。もっとも店長のじいさんと二人の店だけどね。立待岬の絶景は毎日見ても美しさに感動するし、十二月から二月までの三か月間は休業するけど、この期間は会社都合解雇ということで失業手当がもらえる。三月から新鮮な気持ちで仕事始めは除雪からというのも、おれの性分に合っていると思うんだ。でも店に今妙なものが出るんだよ。かなりやばいと思う。こんなことを頼めるのはおまえだけだよ。よろしく頼む」
「困っているときはお互い様さ。ましてや親友の依頼だからな。でもお礼は居酒屋だよ。そうだ、『もつ大将』がいいな。あの鍋のもつは黒毛和牛よりもうまいからな」
「でもおまえは除霊も占いもプロ級じゃん。そっちの方面に行けばよかったのにな」
「いやいや! そっちじゃ食っていけないよ。今は調理師をめざして施設の調理補助をしているんだよ。おれはそれでいいんだ。そんなことより何があったんだ?」
「おとといの昼ぐらいから『花つつじ』に霊的な嫌な気配がするようになったんだ。それが今朝からおれにまとわり付くようになったんだよ」
「ちょっと待て直也。おまえは霊媒体質だから、そのためにおれが九字法を教えたんじゃないか。やらなかったのか」
「もちろん九字は切ったさ。でもどういうわけか効かなかったんだよ。こんなことは初めてだ」
「そうか、普通はありえないよな。浮遊霊なら秒殺だし、地縛霊でも三十秒以内で除霊できる九字法が効かないということは、何かの因縁があるか、強力な悪魔が関係しているのかもしれないな。明日朝一でチャリで行くからな。それまで勤務中は取り憑かれないように、九字の刀は出しっぱなしにしておくんだぞ」