【前回の記事を読む】同級生に評判だったお笑い…次第に笑いが取れなくなった出来事
泣けないのは何故
純太たちは泉第三小学校から泉中学に進んだ。
泉中学では、クラブ活動は必ず何かに参加しなくてはいけない。純太は生物クラブに入った。飼育や観察が特別に好きだという理由で入部を決めたのではない。何となく、楽そうな響きがあったからだ。
生物クラブの部屋は理科室だ。いくつかの実験用具の他に、水槽があって、その中に二十センチくらいのフナが一匹いた。傍にメダカの水槽があった。誰もいない理科室で純太は好奇心からメダカを一匹フナの水槽に入れた。
フナは興味なさそうに浮かんでいたのに、ふっとメダカを飲み込んだ。それは生物クラブに入って、初めてフナがメダカを食べる事を知った一瞬だった。
綾乃も同じ生物クラブにいる。時間が楽なクラブにしたのはフルートの練習が多くなったからだ。音大付属の高校に進学する夢を持っている。
メダカをフナの水槽に入れた日、綾乃はメダカが一匹いないと大騒ぎした。メダカが死ぬと大抵は水槽の上にぷかぷか浮かんでいる。だが、その日は一匹のメダカも浮かんではいなかった。純太は十数匹いるメダカの数をいちいち数えている奴がいたなんて初めて知った。
突然消えたメダカに女子は大騒ぎだったけど、
「死んで、底に沈んでいるよ、きっと」
と誰かが言ったからその場は収まった。メダカの寿命が短い事はみんな知っていた。
純太は胸をなでおろし、メダカの水槽に餌をいつもより多めに撒いた。