小学校から中学校に進学したという事は、今まで知らなかった生徒たちとも交わるという事だ。

純太のクラスがメダカの水槽で、純太がその中の一匹のメダカだとしたら、純太にとってのフナは隣のクラスの木田卓也だ。

卓也は背も高く、でっぷりと太っている。茶色いジャケットタイプの制服の前のボタンが閉まらない。水槽で飼われているフナと違って好きに動き回って、学校の誰彼構わず手当たり次第に因縁付けて、怪我をさせる。凶暴なフナだ。万引きもやっている。だから純太は自ら近づいたりしない。誰かにフナの水槽に入れられることが無ければ安全なのだ。

聡にとっても卓也はフナだったが、もう一つ、ゴリラでもあった。聡はテレビの人気芸人のまねから離れて、一人で物まねの技を磨いていた。癖のある教師は良い題材で生徒たちに大受けだった。

卓也は絶好の物まねのネタだった。おでこが眉毛に向かって少し出ていたり、鼻の穴が横広がりで、威嚇している時はさらに広がった。

卓也は空手の大会でいつも上位にいる兄がいた。その存在が卓也をより強く見せていた。そして、卓也の唯一の武器が空手有段者の兄がいるという事だけだった。そんな鼻つまみの卓也を陰で笑い者にする事が聡の目下の楽しみだった。

他にも中学生になって変わった事と言えば、男女の友達関係だ。女子対男子という構図になった。(こく)ったり(こく)られたりしてお互いに気になる相手とは一対一の交際になる。純太はまだ、誰にも告られてないし、告ってもない。

クラスの杉田が綾乃に告った話を聞いた時、純太の胸が少しざわついた。結果は、気にしない事にした。まあ、それなりに中学生活を過ごしていた純太だった。