成長という木
純太の部屋は階段を上がった右側にある。ベッドと机の周りには脱いだ服やら読みかけの漫画本が散乱している。作りかけてやめた飛行機の模型がある。今では部品の所在さえ分からない。
小さい時はどちらかと言えば几帳面な性格で、頼まれれば洗濯物も角を合わせてきちんと畳んでいた。いつから、こんなに身の回りの事が雑然となっていても気にならなくなっていたのだろうか。一瞬抱いた反省も、机の上の茶色い小さな段ボールを見ると跡形もなく消えてしまった。
制服を着替えるのももどかしく、そのままで、まず箱を手にした。軽い。カッターで段ボールを取り囲んでいるテープを切った。箱を開けると中にはもっと小さな箱が入っていた。またテープを切って、乱暴に小箱を開けた。
中に入っていたのは通販で買った折り畳み式の飛び出しナイフだった。雑誌の後ろに通販の広告があった。本格的なサバイバルナイフや万能ナイフの写真が大きく貼りだしている右隅に小さく載っていたナイフ。値段も一番安く、例えば鉛筆を削るとかに使いやすそうだった。今はシャーペンだから使わないか、などと気持ちが行ったり来たりしながら、いつの間にか購入の為に携帯でQRコードを写メしていた。
画像で見たより少し小さく見えた。象牙色の取っ手の横のところに小さなポッチが付いていた。人差し指と親指で挟み込み、ポッチに触れた親指に力を入れたら、象牙色の取っ手のところからビュンとナイフが飛び出た。飛び出た刃を見た時、先のとがったそれは一瞬で純太を虜にした。例えば台所の包丁とか工作で使う小刀とかと違った特別な力を感じさせた。代金は三千二百円。純太の有り金を全部はたいても手に入れたかった。
理由は護身用として。まあ、手元にあれば何となく安心するかなと思って購入した訳だが、それで誰かを傷つけたりするつもりは毛頭ない。ただ、もしかしての場合を想定していて