「俺に構うな。これは脅しじゃないぞ」
と頭の中でナイフを見せる、その時の事を幾度も妄想していた。
だけど、望月先輩に起こった事を考えると少し怖さもあった。もし、先輩がその時ナイフを持っていたら。怪我だけでは済まなかったかもしれない。荻原は純太がナイフを買った事を知らないはずなのに、純太の未来の行動を予測しているかのような事を言った。
『お前も切れてあいつの事を刺したりしてな』
純太はナイフで刺されて死んだ聡の事を一瞬思い浮かべたが、あの出来事はめったにない出来事として考えた。それは、野島や荻原が言っていたアキラの過去の話がナイフを使う事にならない根拠になった。
少し強気に「お前の過去を知っているぞ」と言えば良いのだ。過去が何であれ、あいつの弱みを握ったという事だ。アキラを取り囲んでいる奴らは奢ってもらって仲間になっているだけだ。
アキラの弱みをばらしたら、あいつらはどうするんだろうか。ナイフなしの妄想シミュレーションは広がる。ナイフはいらない。もったいない買い物だったかもと、少し後悔した。
夕食前、携帯が鳴った。綾乃からのメールだった。交差点まで追いかけて無視された痛い記憶が蘇った。何だろう。嫌な予感がした。文面を目で追ってつい、二度見してしまった。
「もし、暇だったら家に来ないか」
という誘いだったからだ。
「直ぐ行く」
と書いてから慌てて消した。
「分かった」
とOKの絵文字。それも消してOKの絵文字だけを送信した。