成長という木
綾乃は冷蔵庫からコーラの大びんとグラス二個、ポテトチップの袋を抱えると自分の部屋に行った。純太は黙って後に続いた。
綾乃の部屋に来たのは中学二年以来だ。その時は聡もいた。そんな思い出を追い払うように、部屋を見渡した。壁に掛かっていたポスターは純太の知らない韓流スターに変わっていた。
二人はベッドと机の間の隙間に向かい合って座った。綾乃は保育園時代からお気に入りだったクマの縫いぐるみを胸に抱いて、窮屈そうに体を曲げグラスにコーラを注いだ。
「そのおでこ、もしかしてチョークの当たったとこ?」
コーラでいっぱいになったグラスを、純太に「どうぞ」と言うように少し前に押した。純太は額のバンソウコウをビリっとはがした。
「もう何でもないよ」
綾乃は俺がはがしたバンソウコウを丸めていた指先を見ながら
「もう、絶対にムカつく」
と突然綾乃が言った。それは綾乃がグラスに注いでくれたコーラを一気に飲み干した時だった。ゲっと大きなゲップが出た。
「何だよ、急に」
「だってさあ。ムカつくのよ」
「ふーん」
純太は黙って綾乃の気が収まるのを待った。
「どうして純太はあいつらにやられてもやり返さないの? やり返して聡みたいになるのが怖かったとかあるの?」
「え、そこ?」
純太はそんな事を言うために呼び出したのかと少し警戒した。何故なら、綾乃は純太に今までだっていろいろ意見を言ってきた。
「男らしくない」、「言いなりになるな」、「毅然としろ」、でも、何一つ改善されない純太についに痺れを切らした。何も言わなくなったばかりか、避けるようになった。それなのに何故今更という気がした。