高校から音楽大学の付属に行きたかった。でも、お金の都合で私立には行けなかった綾乃。フルートが吹きたくて吹奏楽部に入ったものの、自分の目指すべき道ではないと感じた綾乃。
「成長の木に枝を描くとしたら、やっぱり左の枝ばかりだ」
純太が言うと
「ああ、成長の木ね。保健室の佐伯先生から配られた奴ね」
と綾乃はカバンから絵を出した。
「これってさ、あたしたち高校生にとってどんな意味あんの? 枝を描くとしたら全部左側の不幸の枝に決まってんじゃん。悩みばっかじゃん。私たち」
佐伯が聞いたら、頭を抱えてしまうだろう。
「でも、克服すると木が伸びていくんだよね」
綾乃は少しこの図の意図する所を考えていた。
「先生はわかってないね。どうやって悩みを解決していくか、そこが問題じゃない? 成長するって」
「うん」
「別に私どうしても高校から音大付属に行きたい訳じゃなかったから、それは良いの」
「うん」とまた同意してみた。
「それって、克服したって事?」
綾乃は膝を純太の方に乗り出した。
「何かさあ、気持ちがぐちゃぐちゃして。こんな問題は音大付属にでも行ってたら違ったんかな。諦めが悪い? 私」
と自嘲気味に笑って膝を元の位置に戻した。
「諦めると、成長できんのかなあ。その時は純太と同じ高校行けたら良いなって単純に思ってたしさ」
と言って鼻をかんだ。綾乃が言うように、「成長の木」は大人が考えがちな、理想の青春の木に過ぎないのかもしれないと思った。