空き巣事件

インタビュー2 佐伯祐介、出版社社員(オンライン)

斉田のミステリーを長年出版してきた出版社の社員佐伯祐介はまだ三十代初めで斉田の担当になってからそれほど年月が経っていなかったらしい。実はあのオンライン追悼会には佐伯の先輩にあたる工藤正高も参加するはずだったと言った。工藤は斉田寛が売り出し中の時からの長い付き合いだった。

だがコロナウイルス感染症に(かか)って今は御茶ノ水の大学病院の集中治療室に入院している。

「その人は何か持病を持っているんですか?」

「糖尿病を患っていると聞きました。でも治療はうまくいっていて、血糖値も下がったと聞いていました。その代わり昔はふっくらしていたのが一気に痩せたようです。そこへコロナです。本当に運が悪い」

やはりそうかと松野は思った。コロナウイルスで重篤(じゅうとく)になる患者は持病のあるケースが多いと聞いている。アメリカのコロナウイルス感染症による死亡者の多くはコロナウイルスと持病の合併症が原因との報告もある。

「その人は何歳くらいですか?」

「斉田さんより十歳上と言っていましたから六十代半ばと思います。早く元気になって欲しいです。温厚ないい人なんですよ」

と佐伯は先輩の身を案じる風だった。オンライン追悼会に出られなくて、その先輩はさぞかし残念だろうと佐伯は言ったが、本人は集中治療室でそれどころではないに違いない。佐伯祐介は斉田寛を尊敬していたと言った。

「でも先生は若い頃は大変な暴れん坊だったと聞いています」

斉田はよく盛り場などをほっつき歩いて暴れたらしい。