空き巣事件

インタビュー3 後藤沙織、斉田の大学時代の友人(オンライン)

後藤沙織は学生時代に大学の文芸部で斉田夫妻と一緒だった。彼女自身は学校を出てからその後少し仕事に就いただけで家庭に入った。若い頃は中々の容姿を誇っていたのかも知れないがズームで見る彼女は実際の年齢よりも老けて見えた。顔の輪郭から推察するに、やや小肥りで念入りに化粧してはいるものの明らかに人前に出なくなって久しいといった感じだ。

彼女は松野のインタビューを受けることを夫を始め誰にも内緒にしてくれと言った。夫はコロナ禍でも毎日出勤している。

「僕はあなたのご主人を存じ上げません」

「ええ、でも……この映像はお宅のパソコンに残るんでしょうか? もしそうならインタビューはお断りします」

松野は画像は保存せずこの場で消去すると約束した。

彼女の娘は独立して近くに住んでいるが昼間娘がテレワークをしている間小一の孫を預かっている。子供は別の部屋で学校の宿題に取り組んでいるので大丈夫だ。

「単刀直入にお聞きします。あなたと斉田さんは学生時代付き合っていたんですか?」

「ええ、あの場で皆さんの前で披露するのははばかられたんですが、あの当時私と斎藤さんは恋人同士で、いずれ結婚すると言われていましたわ。私もそんな気持ちでした。

私たちの親の世代は“団塊の世代”よりも七、八年上で今ほどには豊かではありませんでした。でも寛二さんは飯田橋に一軒家を借りてお掃除のおばさんが週二回通って来るという一般の学生からは浮世離れした生活をしていたわ。有名な日本画家の息子さんで家からの仕送りがたっぷりあって、いかにも“いいところのお坊ちゃま”だったのよ。もちろん男の友達も一杯いました。皆あの人の家に集まってわいわいやっていて、いつも玄関にビール瓶や一升瓶が転がっていたわ」

「酒飲みだったんですか?」

彼女は首を振った。

「大酒飲みと言うほどではありません。でも人が来ると一緒に飲むのは好きでした。あの人は人を惹きつける刺激的なオーラを発散していました。その癖寂しがり屋でそれがまた女の子たちには魅力だったわ。とにかくあの人は輝いていたのよ。そんな人は周りを探しても他にはいなかったわ。私はあの人と並んで歩くのが誇らしかった。自慢の恋人を皆に見せびらかしている気分でした。女友達に羨ましがられていたわ。あの頃は私も人生のことを何も知らない年頃でしたし」

そんな彼となぜ別れたのか?

「もちろんあの人の奧さんのせいです」