女と太鼓の男は、死んだ客を頭側を男が、足側を女が持ちカーテンのほうに運んだ。カーテンを開くと、そこには何体もの死体が転がっている。二人はその上に、無造作に死んだ客を放り投げた。

私はこんな恐ろしいことが本当にあるのだろうか、悪い夢であればさめてくれと、必死で願っていた。ここで私と千穂が死ぬのは避けられないことなのだろうか。 

次に三十代の男の客が正面に進み出て、掛け軸の前に座った。女がまた、べべんべんと三味線を弾き始め、男もどどん・どんと太鼓をたたく。

正面の客はおとなしく正座をしている。

和服の女が、かすれた声を出す。

妙な節で、

「たかあまはらにしずまります『ま』のおおかみ あらわれたまいしいまは ともにしもべとなりてえいえんにおつかえするため まずはじごくでしゅぎょうをはじめせしめんと おおせたてまつるなりー」

それから唄い出した。

「三人ー寄れば 地獄行きー」

「三人ー寄れば 地獄行きー」

「三人ー寄れば 地獄行きー」

その声が終わるやいなや、太鼓をたたいていた男が目を大きく開き、中腰になったと思うと、すぐばたんと仰向けに倒れた。

やはり心臓が止まっているようだ。

私はこのときはもうパニックにはならず、自分の運命を受け入れるしかないというような、妙な意識が生まれていた。

女と客が太鼓の男をかかえて、また、太鼓の奥のカーテンを開けた。そしてまた、死体の小山の上に死んだ男を放り投げた。

この頃には私は、麻酔が効いているときのように、ふわふわとしていて、ほとんど恐怖を感じなくなっていた。

また新しい客が正面に座った。若い女性である。ここで最前列が空席になったので、皆で前の席に移動した。生き残った男の客が当然のように太鼓の前に座る。女が三味線を弾き始め、男が太鼓をたたく。

今思えば三味線など持ったこともないだろう若い人が、普通に弾けるはずがない。これはいったい何なのだ。しかしそのときは何も考えられず、ただ千穂の手を握りしめることに集中していた。和服の女がまた妙な節で唱える。

「たかあまはらにしずまります『ま』のおおかみ あらわれたまいしいまは ともにしもべとなりてえいえんにおつかえするため まずはじごくでしゅぎょうをはじめせしめんと おおせたてまつるなり―」

それから唄い出した。

「三人ー寄れば 地獄行きー」

「三人ー寄れば 地獄行きー」

「三人ー寄れば 地獄行きー」

唄い終わったとたん、今度は三味線の女が顔をくしゃくしゃにゆがめながら中腰になったかと思うと、どうと仰向けに倒れた。

【前回の記事を読む】【小説】恐ろしい…中年男性「もう、外には出られないんだよ」