02 授けられた力

「……ん、おいしい! おいしいじゃないですか、ジンさん。もう! なんですか『食べられる』って!?」

自分が作ったスープを口にしてアンは、ジンにそう抗議した。

「まずいとは言っていないだろ」ジンは不愛想に答えた。それを聞いてアンは、また頬を膨らませた。

あれから。力に気付いたアンは、その力を使って食べられるものを選別し、生き延びることができた。彼女が力に気付いた直後にジンが小屋を訪れ、本を置いていった。アンが「字が読めない」と言うと、ジンは面倒くさそうに彼女に読み書きを教えた。

アンは生きるために、字を覚え、本を読む。生きるために考える。小屋の扉の前にあった道具を使って罠を作り、何度も失敗を重ねながら、ウサギやイノシシを捕まえることができた。そうして捕った動物をさばき、植物の『声』を聴いて調理して食べた。

そして、生きていくために自分の力の把握と、食糧調達、生活範囲を広げることも兼ねて森の中を歩いて回った。小川を下ると小さな湖があった。そこは塩湖だった。動物の内臓や骨からミネラルは摂れていたが、調理と保存、生きていくには塩は不可欠だ。彼女はそこで貴重な岩塩を手に入れることができた。

ある日。アンが岩塩を採りに行くとそこに人がいた。アンはとっさに──森に引き返し隠れた。彼女はどうしてか──見つかってはいけない! と思ってそんな行動をとった。

そうやってアンは、人に見つからないようにひっそりと、森の中で生きてきた。

「いいか、アン。お前のその力、誰にも言うなよ」

頬を膨らませたアンを無視して、ジンが忠告する。

「? なんですか、いきなり……」アンは目を丸くする。「言いませんよ。ていうか、言う人がいません。こんな森の中……」

「……アン。お前、この森に住むようになってから何年たつ」

「……? えーっとぉ!?」急にそんな質問をするジンにも首を傾げながら、アンは考える。「……十年……くらい、かな」

「そうか……」十年という歳月にさして感じる様子もなく、ジンは抑揚なく言った。

「アン、お前がその気になったらいつだってこの森から──」

「いいんです! 私は…………」

ジンが言おうとする言葉を遮るように、アンは語気を強めて言った。そして俯き、「私は……。こうして、ジンさんが時々この小屋に来てくれるだけで……」と、言い訳とささやかな願いの入り混じった言葉を聞こえないほどの小さな声で言ってから顔を上げ、作り笑顔を浮かべた。

「…………」

ジンは、それ以上何も言わなかった。そして全ての料理を平らげた。

「やった! えへへへぇ」

それを見たアンはうれしそうに笑い、一転、意地悪い表情を浮かべた。

「ジンさん、なんだかんだ言って、いつも全部食べてくれますよね」

ジンは「フン」と鼻を鳴らすだけだった。