00 老婆の語り・序
「いいかい」
年老いた老婆が幼い兄妹に言い聞かせる。
「あの森に入っちゃいけないよ……。あの森には、魔女が住んでいるからねぇ……」
「まじょお~!? 」
男の子は子供だましに騙されるもんかと、強がって言った。
「そうだよぉ……、こわぁ~い魔女……。おっきな釜で煮て……食べちゃうよ~」
「やぁーだぁ! 」
老婆が両手を上げて脅かすように言うと、女の子は男の子の後ろに隠れた。
「魔女なんてほんとにいるの? おばあちゃん」
「いるよぉ~。おばあも、おばあのおばあちゃんから聞いたからねぇ……。ずぅっと語られ続けているんだ、本当にいるからだよ……」
「じゃあ、もう死んでるんじゃないの? 」
「いいや」
老婆は首を振って、力強く言い切った。
「生きてるよ………。なんたって、魔女だからねぇ……。その証拠に、あの森に入った者は誰一人帰ってこないからね……」
「…………」
脅かすように、ではなく、老婆が淡々と語ると、男の子も女の子も押し黙った。そんな兄妹に老婆は、語り始める。
「いいかい……。これは昔、むかぁ~しのお話だよ……」
01 出会う
暗い……。
深く暗い森の中。一人の少女が、大きな木の根元にできたくぼみに身を置き、身体を丸めて寒さに震えていた。少女の格好はみすぼらしく、薄汚れていた。
なぜ、少女が一人、こんな深い森の中にいるのか──。
「いーい」
一人の女性が、年端もいかない少女に人差し指をかざして言い聞かせるように言った。
「ここでじっとしていなさい。お母さん、木の実を探してくるから。わかった? 」
「うん! わかった」
母親と思われる女性にそう言われた娘は、元気に返事した。
娘の反応に母親はほっとした笑顔を浮かべると、娘の頭から頬へと慈しむように撫でた後、背を向け、それから一度も振り返ることなく群生する木々の間を歩き木の陰へと、消えていった。それから──母親は姿を現さなかった。日が暮れても……。夜が更けて、闇が深くなっても──。