05 圧し掛かる想い
「ああ、リドリー! やっと帰ってきたのかい」
扉を開けたリドリーに、中年のふくよかな女性がそう声をかけて駆け寄った。
「ああ、ダグラスさん。今帰った! ……ソフィーは?」
「ベッドに寝とるよ。……そちらさんは?」
ダグラスと呼ばれたその女性は、疑いの眼差しを、リドリーの後ろに立ったアンに向けた。アンが反射的に顔を背けると、リドリーが後ろを振り返り、
「この方にソフィーを診てもらう」
と言って、アンの肩に手を置いた。
「その娘にぃ!?」
明らかに怪しんだ態度を見せて女性は言った。上から下までジロジロと窺うようにアンを見る。
「リドリー……、ちょっと……」
女性は部屋の隅に行きながらリドリーを手招きした。そしてリドリーへ、アンに聞こえないように声を潜めて話しかけた。
「ちょっと! 大丈夫なのかい? あんな小娘……。あの娘が、あんたが連れてくると言った医者かい!?」
「そうだ! ダグラスさんに言っちゃいないが、あの娘は俺の命の恩人なんだ。だからソフィーも診てもらう!」
リドリーは大きな声で言い切った。そして、「さっ。アンさん、こっちだ」と言って、ある部屋のドアへ手を添えた。
「ソフィー? 入るよ」
ノックをしながらリドリーは声をかけ、ドアを開けた。
部屋の中には、ベッドに横たわる、ほっそりとした女性がいた。ブロンドの髪を右耳の後ろでまとめ、白い肌の顔色は悪く、それでも、帰ってきた旦那に笑顔を見せた。
「おかえり、あなた……。そちらが……?」
「ああ、そうだ! この娘だ……」
リドリーは含んだ物言いだった。
「そう、この人が……。アン、さん……だったかしら。このたびはこんなところまでご足労いただいて…………」
か細い声で言って、リドリーの妻、ソフィーが上体を起こそうとした。リドリーがあわてて手助けする。
緊張と不安から、部屋に入る事を躊躇していたアンもあわてて「あっ! そ、そのままでいいです!」と言い駆け寄った。
そう言われてもソフィーは上体を起こし、リドリーが背中を支えた。
「会いたかったわ……。あなたにはお礼を言わなきゃって思っていたんです。旦那を助けてくれたそうで……。ありがとうございます」
ソフィーは頭を下げ、リドリーも頭を下げた。