02 授けられた力
翌朝。鳥の鳴き声で少女は目を覚ました。手にしていたはずの厚い布の感触がない、横には誰もいなかった。心細さにみるみる表情をゆがめて、少女は辺りを見回した。
「ふっ……。は、はっ……」
少女は、不安に押しつぶされそうになり、動悸が激しくなり、息もうまくできなくなった。何でもいいから手にしたいのか自分の服をギュッと握り、嗚咽が込み上げそうなところで必死に我慢していると、「ギィィー…………」と軋む音を立てて扉が開き、陽の光が少女に降り注いだ。
「おう、起きたか」
急な陽の光に眩しそうに目を細める少女に、扉を開けた男が声をかけた。少女には逆光で、暗い影としか見えなかった。その暗い影が、少女に問う──「おい、ガキ。生きたいか…………?」
その問いかけに。少女は少しの間を開けて──力強く頷いた。
「……そうか…………」
逆光で表情は窺えないが、そう言った男の声が、悲しげに少女には聞こえた。
男が、少女に顔を近づける。暗闇が迫ってくるような感覚に襲われ、少女は肩をビクつかせてギュッと目を瞑り、身体を強張らせた。
男は──少女の右耳にそっと口づけた。
ピクッと反応して少女が目を開けると、男の顔がすぐ近くに見えた。少女はこの時、初めて男の顔をはっきりと見た。ポーっと紅くなって、男の唇が触れた右耳を押さえる。さっきからその右耳が熱い。
「じゃあな。ガキ。その力をどうするかはお前の自由だ。俺は忙しいんだ。住む場所と力は与えた。生きるか死ぬか、あとはお前次第だ」
その言葉を、この時の少女は理解できなかった。言うだけ言ったら男は少女に背を向け、小屋を出て行った。少女があわてて追いかけると、男は、すぐ追いかけたにもかかわらずはるか前方にいた。
少女は去って行く男の後ろ姿に向かって、大声で叫んだ。
「アンです!」
男は歩みを止めた。
「アン! わたしの名前、アンっていいます!」
黒いコートの男は振り返って、アンに向かって言った。
「……ジンだ」
それだけ言うと、ジンは森の中へと消えていった。