「……よし!」

しばらく立ち尽くしていたアンだったが、そう力強く言うと、まずは小屋の掃除に取り掛かった。ボロ布を捜しだし、近くに水音が聞こえたので行ってみると小川が流れていた。そこへ木桶を持って水を汲み、小屋中を拭いてきれいにした。

気付けば、小屋の扉の前に、いろんな道具が無造作に置いてあった。元から置いてあったのか、誰かが置いていったのか──、アンは不思議に思う事なく、それらを使って小屋を何とか住めるように動き回った。

そうこうしているうちにお腹が減る。昨日採った木の実やらは、ジンのコートを掴んだ時に手放した。取りに行こうかとも思ったが、またこの小屋に戻ってこられるのか、アンには自信がない。幸い、この辺りにはキイチゴなどが生っていた。彼女はそれらを採って空腹を満たし、火を絶やすことなく竈に薪をくべ、お湯を沸かし、日が落ちると眠りについた。

時折起きては竈に薪をくべる。小さな時から家の手伝いをしていたアンにとっては、当たり前の事だった。

それから。小屋に住めるようになったからといっても、少女一人、生きていくだけでも厳しい。一日が食べ物を探すだけで過ぎてしまう。その食べ物も、小屋の周りに生っている物はすぐに食べつくしてしまい、探す範囲を広げてもなかなか食べ物にありつけなくなった。

アンは、数日間、水しか口にできなくなった。

ジンは、あれ以来、一度も姿を現さなかった。

そして。今日も食べ物を探して森の中を歩き回り、アンは疲れから、少し休もうと思って地べたに座って──そのまま動けなくなった。

目の前には、野草やらキノコが生えている。

(これ……。食べられるのかな……? そういえば、お母さん言ってたなぁ……。草とかキノコには、毒がある物があるって……)

アンは、そのキノコに手を伸ばす。しばらく眺め匂いを嗅いだりして、思う──もう……いいや、毒でも……。いっそのこと……おなかいっぱい食べて、し──。

――『生きたいか……?』

ジンの言葉が。アンの手を止めた。

「……ふぐっ。ううぅ~……。ひっ、はあああ゛ぁぁーーーーっ……」

アンは涙も出ず、ただ、嗚咽を漏らした。泣く体力もなく、か細い声で泣きつづけた。その時。しばらく涙も流せずにむせび泣いていたアンの耳に──『声』が聞こえた。

「……ひぐっ、……。……え?」

その『声』というか『音』なのか。誰もいないはずの森の中で聞いた『声』に、アンは茫然とした顔で訊き返した。すると、やはり目の前の野草やキノコから聞こえてくる──右の耳から──確かに聞こえる。

――『その力をどうするかは──住む場所と力は与えた。生きるか死ぬか──』

「あとは……。わたし、次第……!」

アンは、そう力強く言葉を発して、『声』が聞こえる目の前の物に手を伸ばした。

【前回の記事を読む】【小説】夜の闇が拡がる森の中で、少女と黒いコートの男は出会う