03  風雲

「……ン、ここは……?」

目を覚ました男が、見たこともない天井を見て言った。天井がぐるぐると回り、吐き気に襲われる。意識が朦朧となりながらも、自分がベッドに寝かされていることはわかった。

「……あっ!目、覚ましましたか?」

「……あんたは……?」

「……とりあえず。これ、飲んでください」

アンは男の後頭部に手を添えながらもう片方の手に持った皿を男の口元に持っていく。皿の上には粉状の何かがあった。男はぐるぐると回る頭でろくな思考力も働かず、少し訝しりながらも、素直にアンが差し出したものを口に入れた。それを白湯で流し込むと、男は再び眠りについた。

男が再び目を覚ました時、天井は回っていなかった。ベッドの傍らには、黒い衣服を着た女性が床に座ったままベッドを枕にして寝息を立てている。何かを飲ませてくれた女だと思いながら男が上体を起こすと、自分の体調の良さに気付いた。

(どうして……? この()に飲まされた……あれか!?)

「……ん、うんん……!?」

男が上体を起こした時の揺れで、アンは目覚めた。

「お嬢ちゃん……」

「ン~……。……はっ!あ、あああ、あの!?具合、ど、どうですか?」

アンは寝惚け(まなこ)を擦り、男が目覚めていた事に、お嬢ちゃんと呼ばれた事に動揺しながらも、すぐに男の体調を訊いた。

「ああ……。びっくりするほどいいよ。これもお嬢ちゃんのおかげだ。ありがとう」

「い、いい、いいえっ!とんでもないです。いっ、今、食事の用意をしましゅ」

アンは俯き、十年ぶりにジン以外の人間と話す事に緊張して噛みまくりながら立ち上がって、炊事場に向かった。男はその様子を見ながら、自分がなぜこんなことになったのか思い返した──

確か……、そうだ! でかい樹木が必要で、森の奥に入ったんだ。そしたら急に天気が悪くなって……、戻ろうにも真っ暗になっちまって迷っちまったんだ。雨にも打たれて……、体温が奪われて、とにかく雨風をしのげる場所を捜そうと歩き回っていたら……気を失った!? のか……。気付いたらベッドの上で、このお嬢ちゃんに──。

「あ、あのっ!スス……スープ、です。どうぞ!」

そこにアンが、俯いたまま男にスープを差し出した。

「あっ、ああ……。ありがとう」