格差を広げる税制を改正しようとしない日本

租税による所得再分配効果の実態を、所得税制の変遷から見ますと、一九八六年には最高税率が七〇%の高さであったのに対して、それ以降、徐々に下げられ、三七%にまで下落しました。しかも、以前は税率が一五段階と細かく定められていましたが、現在では四段階という少なさです。

一九八〇年代に新自由主義の時代になり、アメリカのレーガン、イギリスのサッチャー首相が累進課税を廃止して大幅減税をしましたが、日本でも中曽根内閣がそれに便乗して、累進課税を大幅に引き下げて、以後、ほとんどそのままで来たのです。最高税率の変遷は以下の通りです。

一九七四年 七五・〇%   一九八四年 七〇・〇%  一九八七年 六五・〇%

一九八九年 五〇・〇%   一九九九年 三七・〇%  

二〇〇七年 四〇・〇%

二〇一五年 四五・〇%(二〇一三年度の法改正によるもの)

財務省によると、二〇〇七年現在の申告者の実際の所得税負担率は、所得が一~二億円の納税者(二六・五%)がピークになっています。それ以上の高額納税者は逆に下がり、所得一〇〇億円以上では一四・二%となっています。

かつては大きな累進課税であったものが、平成には三七%にまで下げられました。これでは富裕者に極めて有利に所得税がなっています。筆者が小さい頃(六〇年も前の昭和三〇年代)、新聞のトップに、松下幸之助氏四億円の所得、これで連続一〇数年トップ納税者という見出しが出ていたものでした。

新聞を読むと記者の「八〇%も税にとられてご感想は?」というインタビューに答えて松下氏は「お国のためになって光栄です」と言っていました。そういう時代でした。

一九八〇年代以降の新自由主義の時代には、産業構造の大転換期が進み(この時期は情報化、金融情報化が進み、グローバル化が進み、産業の大転換期でした)、税収構造も転換する時期であったのに、税制度において累進課税を廃止したのですから、日本の格差が大きくなるのは当然です。それが典型的に現れているのがアメリカです。

新自由主義時代の累進課税の廃止が現在の資本主義の危機を招いていることは、拙著『劇症型地球温暖化の危機を資本主義改革で乗り越える』(幻冬舎ルネッサンス新書、二〇二二年三月刊)に書きましたので、その部分だけを次に抜粋します。