第二章 再起

井戸が勢いで言ったかのように私には聞こえたが、彼は私が行くなら地球の果てまでついていき、一緒に会って励ましたいと本気で思っていたことを、私は後で知った。それは海より深い慈愛であった。空より高い志であった。地球より青い井戸の純真さと、天真爛漫さは、北アイルランドでも私を救ってくれるのである。

井戸は覚悟を決めた。ならば私も覚悟を決め、就職活動をもう一度始めようと思った。来年二〇一四年のハロウィーンの夜には、ロバートに会いに、北アイルランドまで行こう! それまでに六ヶ月以上どこかの会社で勤務して、有給休暇を使って堂々と行けるように、来年の春までに就職の決着をつけよう! こう心に誓った私であった。

第三章 三日坊主百回の(すす)

よく知人から聞かれることがある。

「『精神障がい者』の認定を、正式に行政から認定されたことって、健は受け入れられている?」

受け入れられているか、受け止められているか問われれば、私は受け入れた。受け止めた。障がいを隠して働き、健常者が普通にできる仕事をできていなかった私は、少し気持ちが楽になった。

だからといって、それに甘えることはできなかったが、私には決意できたことがある。それは自分に精神障がいがあっても、同じような障がいで苦しんでいる人たちの太陽になれるように働き、生き輝いて、周囲の人たちの無理解を共感へと変えていくことが、自分のこの世に生を授かった使命であるに違いない。だから一生懸命働き、社会で実証(じっしょう)を示していこうと、決意できたのである。

二〇一三年九月十三日、ロバートと初めてインターネットでビデオ通話ができた。その時私が話したことは、一年後に必ず彼に会いにベルファストまで行くからね、そして現在は無職だが、必ず就職を勝ち取り、有給休暇を使って会いに行くからねということだった。それを聞いたロバートは笑顔になった。

「健、本当にありがとう! でも道は険しいと思うから慎重にね!」と言ってくれた。私は彼の意味することが、何となく分かっていた。五年も仕事から離れていた自分が、急に働けるのか、また雇ってくれる会社などあるのかということだった。そう励ましてくれたロバートの顔は、どこか赤みを帯びていた。私は(たず)ねた。

「ロバート、お酒飲んでいるの?」

彼は答えた。

「寂しくなるとお酒を飲んじゃうのさ」

ロバートの表情は、写真で見た時の彼と変わっていた。ロバートと出会って、最初に郵送で送られてきた彼の顔写真を見た時、未来を模索している、たくましそうな優しい青年に見えた。その彼も、もう二十九歳。たくましいひげを生やしたが、どことなく生活に疲れているように見えた。