第二章 再起
ロバート・ハミルトンは二〇〇三年の夏、北アイルランドの首都ベルファストの大学へ進学するため、彼の故郷であるアーマー県を離れてしまった。最後に、私がベルファストの住所を聞いたところ、今度教えるねとだけ言い残して。
そして電子メールアドレスも変わってしまった。彼の実家に手紙を送って、ご家族の方に切手代を払ってもらい、私の手紙をベルファストまで毎回送ってもらうのは、気が引けてできなかった。
私はというと、この十年の間に双極性障害の悪化により、仕事ができなくなり、正式に行政から、「精神障がい者」の認定を受けていたのである。また臨床検査、心理テストを受けて、数学的思考が弱く、瞬発的に考える力の弱い、軽度の知的障がいもあると、医師から診断されていた。周りからは、自分の意思を上手く伝えられない人間という認識ができていたみたいである。
この頃仕事はできなかったが、リハビリを兼ねて、障がい者の施設に通っていた。もう失職して五年程が過ぎていた。わずかな障がい年金でやっとの思いで生活していた。夢も希望もすっかり忘れていた。気がつけば、ただ何となく時間だけが過ぎる毎日だった。ただ何となく生きていた。ロバート・ハミルトンのことを思いながら。
ロバートとの過去の友情の存在だけが、私を生かしていたのである。彼との友情という深い思い出がなければ、私はもう生きていなかったかもしれない。彼への感謝の気持ちを、実際に私が北アイルランドへ行って示したい。今生きていられることに恩返しするために、実際に、彼に会いに行きたい。そう思い始めた二〇一三年九月のある日、最近使い始めたSNS上にあのメッセージが届いたのだ。
「健、久しぶり。僕のことを覚えているかい。君と文通していたロバート・ハミルトンだよ。君は本当にいい友人だった。君とまた交流したいから連絡したよ!」
私はすぐさま、国際NGO(非政府組織)となる、市民活動団体で仲良くしていた、井戸大志に報告した。