(壱)
電話の相手が見える百里眼異能力者、伊能敬(いのうたかし)五二歳、夜街新聞社主催
教えられた集会日に原田は、また「異能クラブ」の本部のある夜街新聞社のビルにやってきた。鉄製の扉は、中が見えないので、どういった人たちがいるのか、全く分からない。原田はまだ二回目ということで事情が分からず、緊張しながら扉を開けた。部屋の中には既に結構な人数が集まっているが、失礼なので、人数の確認はしない。
原田は知らない人ばかりの中から、伊能を見つけると、お辞儀して挨拶した。伊能は、
「おお、原田くんじゃないか。よく来てくれた。神谷くんが失礼なことを言ってしまったから、来ないかもしれないって心配してたんだよ。良かった、来てくれて。これからみんなの自己紹介があるから、聞いてもらって、それから君にも自己紹介してもらうから。よろしくね」
そう言うと、みんなに向かって、伊能が話し始めた。
「みなさん、本日は、お集まりいただき、誠にありがとうございます。私がこの異能クラブの開設者で会長であります、伊能敬です。異能クラブの『異能』は、特殊な能力のことを言ってますが、私の名前の伊能は、あの日本地図を作った『伊能忠敬』の伊能です。その子孫だとは思っておるのですが、証拠はありません。祖父が、ちらっとそう言っていたことがあるというだけなので。
もちろん、冗談だったのかもしれませんが、万一、本当だったらいいなとは思っております。ただ、私に地図を作る能力はありません。むしろ、方向音痴で、道を覚えることができないほどです。そうなると、やっぱり、伊能忠敬の子孫ではないのかもしれません。ただ、私を含めて、みんなの人生の地図が作れたらいいなと思い、この集まりを作りました。その意味では、伊能忠敬よりも私の方が立派ではないかと自負しております」
伊能は、これからみんなに自己紹介してもらうのに、緊張をほぐそうと、軽く冗談めいた話から始めた。そして続けて、
「本題に戻りますが、ここに集まってもらったみなさんは、みんなそれぞれ何らかの能力がある方たちです。ただ、その能力が世間一般に言われる、いわゆる『超能力』と呼べるほどのものではない、つまり、何に役に立つのか分からないというものであることに特徴があります。みなさんとは、基本的には、私がまず事前にお会いして大体の事情をうかがっております。
そこで、本クラブにふさわしいのではないか、と判断させていただいた方に、今日、お集まりいただきました。みなさんには、今日、直接に全員の前でお話いただき、全員の了解を得て本クラブの会員になっていただきたいと思います」
と、伊能は本日の趣旨を全員に説明した。その上で、まず自分の紹介から始めた。