「お待たせ致しました。ブレンドコーヒーと」
カップやソーサーなどもアールデコデザインとなっており、コーヒーをますます引き立たせている。やはり、視覚を楽しませることも今さらながら良い。視覚だけではない。こうやって、手に取ってみれば素敵な世界が幕を開けていく。
「クリームコーヒーです」
「ありがとうございます」
「では、ごゆっくりどうぞ」
「サヤカはどうして、ダンスサークルに入らないの?」
「いいの」
「大会にも出場していてあんなに活躍していたのに」
コーヒーを啜りながら、一度視線を落としてから、再びスグルをまっすぐ見つめた。
「今だって、わたしは踊り続けているの。ダンスはね、形通り踊ることだけがダンスでは、ないんだから」
「そ、そうなんだ」
「ダンスは終わらないものなの」
スグルは、何かサヤカから、とてつもないエネルギーが秘められているのを感じてしまった。サヤカがそうやって言うのだから、たとえ、お偉いさんや世の成功者の方々が「そんなことはない」と口を揃えたところで、このサヤカの前では、何の意味も持たないだろう。今のサヤカは、太陽さえも止めてしまう力を持っているのではないだろうか。
このとき、青年は「慄く」という言葉の意味を本当に分かったような気がしたのだった。