5 稀覯
店内では1940年代ジャズのほどほどのインプロヴィゼーションが馴染むように響いている。クール・ジャズといったところであろう。人々の話し声が店内を暖めているように感じるのは気のせいであろうか。しばしば、シルバーがこすれあう音も聞こえてくるが、やはり、喫茶店なので穏やかである。
ロココ調の机もあれば、昭和レトロな陶器が置かれていたり、銀製の照明があれば、アジアンテイストなキャビネットや椅子もあり、稀覯な人形もそうであるが、基調としているものが上手い具合に争うものではない為、それぞれの彩りも楽しめて、長く寛げる空間が造り出されている。
「ご注文はいかがなさいますか?」
「ブレンドで」
「ええと、クリームコーヒーで」
一般の定義が不明瞭ではあるが、一般的なプライオリティとしては、先ず、そのものを楽しむのがほとんどである。が、この青年は、はじめから嗜好品を選択した。もちろん、飾りたくないとか、恰好が気になるとか、そういう類いの話ではない。
「承知致しました」
コーデュロイのシャツにジャスパーグリーンのソムリエエプロンを巻いたシンプルなスタイルである。ウェイターは畏まってから、足軽にキッチンに向かっていく。
「あら、スグルって案外可愛いの飲むのね」
「甘いの好きなんだ」
「わたしもデザートをあとで頼もう。チーズケーキがいいかな」
「いいね」
「ふふっ。そういえばさあ、何かサークル入るの?」
「そうそう。入ります」
「当てていい?」
「うん」
「軽音サークルに入るんでしょ?」
「そう……。そうなんだよ」
「高校のときも入ってたもんね」
「まあね。サヤカは何に入るの?」
「わたし、サークルには入らない」
これは意外だった。てっきりダンスサークルに入ると思っていたからである。所謂、飲みサーにでも勧誘されそうなサヤカでもあるが、もっと活発に大学生活を満喫しそうなサヤカでもあるのに、どうして?