4 昴揚
「ダメと言ったら?」
「ダメ」
「やっぱり。あ、大学近くにあるもうひとつの喫茶店にも、行ってみたいな」
サヤカはプンプンしている様子を見せていない。なんだか楽しそうだ。というか、この御方、もはや何かのヒロインレベルのネアカ。
「じゃあ、そっち行こうよ~!」
「え!? うそうそ、サヤカが行きたい方に行こう」
「え~、いいってば~~、スグルが行きたい方に行こうよ~~」
二人は、しばらく街路樹が立ち並ぶ歩道をあれやこれやとやりとりをしながら歩き、街の商店街に入ってきたところで、青年はついに観念した。サヤカこそが主導権を握るべきだ。これまでもそうであったし、これからもそうに違いない。立ち止まって、稲穂のように頭を下げて言った。
「ごめんなさい。参りました! サヤカ様の行きたいところへ」
「え~~、じゃあしょうがないな~~スグル様」
「へ、もう勘弁して」
この夕焼けをなんと言うべきであろう。生きとし生けるもの、街の匂い、人々を黄金の群れとなって染めていくのであるが、それだけではないように感じてしまう。この心情は、たとえなくてもいい。説明不要。人は見たいものを、見る必要があるものを見る。
それから、二人は天然樹脂製の優れた塗装技術が施された、犬の彫刻が出迎えてくれる喫茶店に入っていった。店内はどうやら、東洋と西洋を楽しめる日本ならではのアンティークなエクレクティックスタイルである。