第一章 アオキ村の少女・サヤ

アオキ村には入り口というものがない。村全体がぐるりと森に囲われて外部の干渉を一切遮断している。針葉樹(しんようじゅ)蒼々(あおあお)と茂る蒼き村。だからアオキ村。

小さなコミュニティ内の住民達は互いに支えあい助けあって暮らすことの大切さをよく知っている、温かい人柄である。

サヤはアオキ村の人々を愛しているし、村人達も互いを思いやっていた。それが世界に適合するための最も簡単で平和的な手段だからだ。

「誰だお前は! どこの者だ!」

「見かけない格好だ、なぜ村の在り処がわかった!」

「この村からさっさと出てけ!」

粗暴な声がする。サヤ達は民家の影に隠れ、村人達が訪問者と対峙する様子を窺った。

大勢が集まって例の二人を取り囲み、それぞれ脅すための武器を剣呑な(つら)つきで構えている。その二人は全身を黒の(すす)けたケープマントで覆い、くたびれた身なりをしていた。

「いや、ですから俺達は怪しい者じゃ」

「怪しいかどうかはオラ達が決めることだ、その格好、見るからに普通の者じゃない。この村に入れる訳にはいかん」

周囲から同意の声があがる。話をしている男の顔はあらわになっているが、見ればずいぶん若い。髪の色もここらでは見かけない赤毛だ。瞳は黒いがアオキ村の民より色濃く、なにより顔の彫りが深い。額に保護眼鏡(ゴーグル)を当て、無造作に乱した髪を押さえている。皮製の色あせたケープは中に見える装束もろともここらで知った作りではない。

「あいつは海の向こうから来た奴だな」

「分かるの、カズマ?」

声を抑えながらカズマは言う。

「サラさんから昔聞いたんだよ、海の向こうには変わった髪の色した人間がいるんだって」

赤い髪の青年は拒まれながら村人になおも語りかけている。ここに来るまで消耗しきっているのだろう、水と食糧を恵んでくれたらすぐに立ち去ると言っている。

アオキ村を囲う森は針葉樹ばかりだ、食糧となる果実はおろか近頃は獣すら見るに久しい。よほどの運がないかぎり山の中で食べ物にありつくことは難しいだろう。