奥さんは、美容室を経営しているらしく、毎朝ご主人と息子が家を出た後に八時頃仕事場に向かう。吾輩は、どうも寂しがり屋の性格のようで、朝六時半に息子が家を出て小学校に行き、朝七時半にご主人が仕事に行き、最後に八時頃奥さんまで家を出ていく気配を感じた時は、大いに心が搔かき乱されてあわてふためく。

「ひとりぼっち」、いや「一ぴきボッチ」にされるのが嫌なのだ。だから、奥さんがリビングルームの扉を開けて玄関に行こうと歩いていくと、ソファーから飛び降りて小走りに走っていって奥さんの足に二本の前足でからみつき、「行かないで、行かないで」としがみつく。

奥さんは、「マックス! 仕事に行ってくるから留守番ね」と言うが、吾輩は一匹ボッチにされるのが寂しいので、振り落とされないように奥さんの足に必死にしがみつく。奥さんは、足にしがみつく吾輩をそのままの状態で重そうに二~三歩引きずり、なんとか自分の足から吾輩を離れさせてリビングルームのドアを閉める。

すると、吾輩は急いで別の部屋のアルミサッシのガラスのき出し窓のところまで走っていって、奥さんがアプローチを門の所まで歩いていき、車庫に置いてあるライムグリーン色の愛車に乗って出発する姿を見届ける。こうなると、もう吾輩はお手上げだ。家の中で、一匹ボッチでやることがないので、ソファーの上にぴょんと飛び乗り、昼寝をむさぼるしかなすすべがない。

幸いにしてご主人と朝方二十分ほど散歩した後なので、心地良い疲れを感じ、熟睡できる。たまに午後二時頃ご主人や奥さんが用事で帰宅すると、吾輩はいつもグーグーと高いびきをかいて熟睡しているそうである。ということは、普段は、昼間はずっと寝ているのだろう。