一
しかし、この息子が心優しい子だと思う時もある。それは、冬の厳寒期だ。
夜十時の就寝時刻になると、息子はベッドの布団の中に入る。吾輩は、それを見るやいなや、速攻でベッドの上にジャンプして飛び乗り、息子の布団の中に潜り込む。なにせ息子の布団の中は、就寝の一時間前から「布団乾燥機」という文明の利器で温めてあるのだ!
吾輩も当初は、息子の布団の中が、それほどまでにホカホカで温かいとは知らなかった。しかし、昨年の冬に、息子が寝る時にふざけて吾輩をリビングルームのソファーから抱き上げて自分の布団の中に連れていった。すると、なんということだろう! 息子の布団の中は、ホカホカと温かくて、まるで別世界、天国のようなのだ!
それ以来、この真冬の厳寒期に冷え冷えとしたリビングルームのソファーの上で一晩を過ごすなんてまっぴら御免、狂気の沙汰だと思った。
だから、吾輩は夜十時頃、息子の就寝時刻に近くなると息子の一挙手一投足をじっと見つめる。もし、息子が自分の部屋に行こうとする気配を感じると、何気ない素振りでしっぽを振りながら息子の後ろを歩いてついていく。
そして、息子がベッドの中に入ったと思うや否や、すぐさま吾輩もベッドの上にジャンプして飛び乗り、息子の布団の中に潜り込むことにしたのだ。
吾輩が布団に潜り込むと、息子は嫌な顔をせずに、「おお、マックス、よく来たな。一緒にゆっくりお休み」と腕枕をしてくれる。吾輩は、息子のお言葉に甘えさせてもらって、息子の左腕に吾輩の頭を乗せ、顔だけは布団から外に出し、鼻で室内の新鮮な空気を呼吸しながら眠りに落ちる。