人間の布団の中に潜り込んで寝るのは猫だけだと思い込まないでいただきたい。室内犬でも、床に寝たがる犬もいるが、吾輩のように布団の中に潜り込むことを無上の喜びと感じる犬もいるのだ。自分でもここいら辺は、限りなく猫に近い性格を持っているように思う。
「盲導犬」という言葉はあるが、「盲導猫」という言葉はない。それは、犬は常に人間のお役に立ちたいという性質が強いが、猫はそんなことを気にしていないからであろう。
「愛玩犬」という言葉はあるが、「愛玩猫」という言葉はない。それは、犬は番犬、狩猟犬、愛玩犬などと性格がはっきり分かれるが、猫は猫撫で声で人間に擦り寄っていくので全ての猫が生来愛玩される性格を持っているからだろう。
考えてみれば「犬撫で声」という言葉もないので、犬はしっぽを振って人間に近づくが、声色を変える技術は発達しなかったのだろう。まあ、そんなことはどうでもいい。兎に角、特に厳冬期の息子の布団の中は天国なのだ!
ただ、少々困るのは、夜中に布団の中が温かくなりすぎて、吾輩が布団から飛び出し、息子の足元まで歩いていってかけ布団の上で寝直す時だ。吾輩が熟睡していると、時々息子の寝相が悪くて寝返りを打ったり、時には足で吾輩を蹴ったりするのだ。これには、ほとほと閉口する。
時には、息子の強烈なキックに吾輩は驚いてベッドを飛び降り、床の上で寝たりすることもある。息子は、それに気づかず爆睡しているのだから打つ手がない。
それにしても人間は、なんて賢いんだろう。三千年前には、焚火を焚いて暖をとることしかできなかったのに、後に囲炉裏や火鉢などの長時間保温できる能力が高いものを発明した。
次に、陶器や鉄を用いて自由な成型技術を高めると、温めたお湯をその中に入れて、「湯たんぽ」というものを発明した。この家のご主人の話によると、昔は子供の時に母親がこの湯たんぽを用意してくれるだけでも、布団の中で足元は温まり、幸福を感じたそうだ。
しかし、人類が電気というものを発明すると、なんと一九七七年に日本で初めて「布団乾燥機」というものまで発明したのだ。この機器を就寝前に一時間ほど使うと、就寝時は布団の中の隅々までホカホカするぐらい温まっているのだ! まるで、温泉、天国、極楽にいるような心持ちだ。
そのせいで、時々吾輩は朝息子が起きたことに気がつかずにベッドの中で爆睡していることがあるらしい。
先日も、息子が着替えて朝ご飯を食べている時に、ご主人は吾輩がいないことに気づき、息子に「マックスは?」と尋ねたところ、「知らない」という返答だったので、息子の部屋を見にいった。すると吾輩が、息子の布団から顔だけ出して、横になってグーグーと高いびきをかいて寝ていたので、ご主人と奥さんは呆あきれて大笑いだった。
それはさておき、人間の考える力、創意工夫する力には脱帽するばかりだ。人間の「知性」は、この地球上を劇的に変化させた。人間は、驚くべき生物だと思う。